2021/6/12

新型コロナ探知犬がPCR検査など他の新型コロナ対策に取って代わることを期待する声もある。PCR検査は、鼻や口腔のぬぐい液の採取が必須で、結果が判明するまでに数日かかることもある。汗に含まれる感染者のにおいを探知できるよう訓練された犬ならば、人々の列に沿って歩きながら、すばやく感染者を嗅ぎ分けることができると、マリカージュン氏は話す。しかも、新型コロナウイルスは汗を介して人や動物に感染しないことが複数の研究で明らかになっているので、リスクは最小限に抑えられる。

犬の能力を応用して、人工の「鼻」が開発できる可能性も考えられるという。呼気のアルコール検知器のような働きをする電子機器で新型コロナ感染者を特定する仕組みができるかもしれない。

コロナ探知の練習をするトゥッカ。ジャーマン・シェパード、ハスキー、ボーダーコリーの雑種だ(PHOTOGRAPH BY SABINA LOUISE PIERCE)
全米のボランティアからセンターに寄せられた実験用のTシャツ。提供者は、無地の白いTシャツを1晩着用した後、直近の新型コロナ検査の結果またはワクチン接種証明書のコピーを添えて提出する(PHOTOGRAPH BY SABINA LOUISE PIERCE)

一方で、パンデミック(世界的大流行)との闘いに探知犬がどこまで活躍するかについて判断するには時期尚早という見方もある。「たしかに可能性はあります」と、米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の国際保健学教授であるアンナ・ダービン氏は言う。氏は、他の対策を補うものとして探知犬を活用できる可能性があると考えている。例えば、1次スクリーニングとして探知犬を利用し、その後、検体を検査して確定すれば、感染の可能性がある人は早めに措置を講じることができるだろう。

もちろん、どんな犬でも探知犬になれるわけではない。「新型コロナ探知犬を導入しようと浮き足立つ人がたくさんいるようですが」とオットー氏は言う。「犬にも適性があることを考える必要があります。信頼できる犬でなければならないし、飽きっぽい犬もこの仕事には向いていません」

犬の認識能力の専門家である米バーナード・カレッジのアレクサンドラ・ホロウィッツ氏は、今回の研究には参加していないが、こうした嗅覚による検知作業に最も適しているのは「報酬をもらうためなら求められたことを何でもやる」犬だと話す。

「グリズはまさにそんな犬です」と研究チームのメンバーたちは口をそろえる。グリズは、お気に入りのごほうびであるオレンジ色の柔らかいボールで遊ぶために、せっせと仕事をする。「グリズはこのボールが大好きなのです」とマリカージュン氏は言う。「ボールを押しつぶすのが好きで、とても楽しそうにしています」

(文 JILLIAN KRAMER、写真 SABINA LOUISE PIERCE、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年5月21日付]

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