2021/6/12

20年春、ペンシルベニア大学の研究者たちは、尿や唾液のサンプルから新型コロナウイルス感染者のにおいを嗅ぎ分けられるよう、犬を訓練し始めた。11月には、汗のサンプルから探知する訓練に進んだ。訓練はまず、陽性サンプルを犬に嗅がせ、ごほうびを与えることからスタートする。感染者のにおいと楽しい体験との関連を犬が学習すると、いよいよ正式な実験を開始する。

実験では、汗が付着したTシャツの他に、清潔な衣類や梱包資材、消毒用アルコールなどを用意する。そして、それぞれを網状のふたが付いた容器に入れ、8本の腕が放射状に伸びる金属製のホイール(回転装置)の末端に取りつける。そのうち1つの容器にだけ、着用してから48時間以内に新型コロナ検査で陽性となった人のTシャツが入っている。犬たちは、陽性者のサンプルを検知するまでホイールの周囲を歩くよう教えられる。

飼い主のエスラー氏がトゥッカを抑えている間に、ワーキングドッグ・センターのスポーツ医学・リハビリ研修医メーガン・ラモス氏が、トゥッカの口の中を綿棒でぬぐう。トゥッカは、この訓練に参加してまだ日が浅い。「訓練に奮闘するトゥッカを見るのは不思議な感覚でした。自宅で必要な時ににおいを嗅ぐ生活から新型コロナの感染者を嗅ぎ分ける仕事に移るのは、基本的な算数から微積分に進むようなものですから」とエスラー氏は言う(PHOTOGRAPH BY SABINA LOUISE PIERCE)
訓練犬が新型コロナに感染していないことを確認するため、実験前に血液と口腔ぬぐい液を採取し、検査を行う(PHOTOGRAPH BY SABINA LOUISE PIERCE)

オットー氏によれば、21年4月の論文で発表した尿と唾液のサンプルを用いた実験結果では、犬は96%の確率で感染者のにおいを正しく探知できたという。汗が付着したTシャツを用いた現在進行中の実験でも、非常に高い成功率が得られている。

ロキシーは最も仕事が速く、陽性者のサンプルをわずか12秒で見つけ出すことができた。まだ若いリコはもっと考えこむタイプで、正解のTシャツを探知するまでに23秒ほどかかる。

イエロー・ラブラドールのロキシーは、興奮しやすい性格だ。「ロキシーはエネルギーがあり余っているので、実験の前にしばらく遊ばせる必要があるのです」と、ワーキングドッグ・センターの博士研究員、アムリサ・マリカージュン氏は話す(PHOTOGRAPH BY SABINA LOUISE PIERCE)

すでに活用例も

犬たちは、人間の細胞の代謝によって分泌される尿、唾液、汗などに含まれる揮発性有機化合物のにおいで新型コロナウイルスの感染者を探知する。

この化合物は「病気の指紋のようなもの」だと、実験に参加している博士研究員アムリサ・マリカージュン氏は説明する。そのにおいは人間の嗅覚では判別できないが、犬には非常に優れた嗅覚がある。「犬の鼻には、空気が還流したり、表面に接触したり、嗅覚受容体に捕らえられたりするスペースが豊富にあります」

英国やフランスなどでも、同様の研究が完了または進行中だ。例えば、フランスのアルフォール獣医大学の教授で獣医のドミニク・グランジャン氏は、新型コロナ検査の陽性者と陰性者の汗のサンプルを犬が識別できることを確認した。氏は、新型コロナの変異ウイルスの感染者を犬が識別できるかどうかについて実験を始める予定だと、ナショナル ジオグラフィックに語っている。フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター国際空港では、乗客から感染者を見つけ出すための探知犬がすでに配備されている。

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