ツバメは4位で11億羽 野生の鳥の数、世界ランキング
あの大群にはいったい何羽のツバメがいるのだろう? 朝日の中で旋回するミドリツバメの群れを目撃した生物学者のコーリー・キャラハン氏はそう考えた。2015年、米国フロリダ州エバーグレーズ北部の湿地帯でのことだ。そして、世界全体ではいったい何羽の鳥たちがいるのだろうか?
「強烈な体験でした」とキャラハン氏は言う。好奇心にかられた氏は、まず自分が目撃したばかりの群れに鳥が何羽いるのかを確かめてみた。群れの写真を撮り、画像のさまざまな部分の鳥の数を数え、そこから群れ全体の数を割り出してみると、その数は50万羽を超えていた。
世界中にいるすべての鳥の数を数えるには、当然ながらこれよりもはるかに手間がかかる。それでも数年後、少なくとも妥当な範囲としてでも、キャラハン氏は世界で初めて種ごとのその具体的な数を見積もる作業に着手し、21年5月17日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」にその結果が発表された。
新たな論文において、オーストラリア、シドニーにあるニューサウスウェールズ大学に所属するキャラハン氏とほか2人の研究者は、地球上には500億から4280億羽の鳥が生息しているとの推定値を示している。
数値の範囲が非常に広いのは、さまざまな不確定要素があるためだ。そうした要素としては例えば、空を飛ぶ大量の小さな動物を数えるのは困難であること、鳥が移動する範囲が広くて不明瞭なこと、世界の多くの地域で科学的データが不足していることなどが挙げられる。
この研究は、専門の科学機関と市民科学者の両方が収集したデータとを組み合わせた独自の方法を用いて、世界の全鳥類種の92%をカバーしている。世界の鳥の数を種ごとに推定しようという初の試みについて、キャラハン氏は、こうした研究はもっと早く行われるべきだったと考えている。「わたしたちは人間の数を数えるのに膨大な時間と労力を費やしていますが、自分たちが地球を共有する多様な生物についても、きちんと把握しておく必要があるでしょう」
世界の鳥の数ランキング
論文によると、世界で最も多い鳥はイエスズメ(Passer domesticus)で、その数は16億羽にのぼる(日本のスズメとは別種)。2番目はホシムクドリ(Sturnus vulgaris)の13億羽、その後はクロワカモメ(Larus delawarensis)12億羽、ツバメ(Hirundo rustica)11億羽、シロカモメ(Larus hyperboreus)9億5000万羽、キタメジロハエトリ(Empidonax alnorum)9億羽と続く。
個体数が非常に多い種はごくわずかであり、個体数が少ない種の方がそれよりもはるかに多いという結果は、科学者たちの予想を裏切るものではなかった。これは生態系においてよく見られるパターンだ。全体としては、世界の鳥類の12%にあたる1180種の鳥は、それぞれ個体数が5000羽に満たないと推定される。
個体数が2500羽に満たない場合、その種は国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定される。
そうした希少種の中には、推定377羽のオオマダラキーウィ(Apteryx haastii)、同630羽のジャワクマタカ(Nisaetus bartelsi)、100羽以下のセーシェルチョウゲンボウ(Falco araeus)などが含まれる。キャラハン氏の好奇心を刺激したミドリツバメ(Tachycineta bicolor)は、今回の調査において約2400万羽が生息していることが判明した。
ちなみに、家禽(かきん)のニワトリ(Gallus gallus domesticus)は世界で約250億羽という圧倒的な個体数を誇る。しかし、今回の研究の対象は野生の鳥だけだ。
過去数十年の間に、世界でどれだけの鳥が失われたのかは不明だが、今回の研究は基本的な水準の設定に役立つだろう。19年に発表されたある論文によると、北米で繁殖する成鳥の総数は、1970年以降、30億羽減少したという。
今回の研究の斬新な点は、専門家と市民科学者のデータを組み合わせたところにあると、米カーネギー自然史博物館パウダーミル鳥類研究センターの研究員ルーカス・デグルート氏は言う。
「世界にどれだけの鳥がいるかを把握しようというのは、非常に野心的で大規模な仕事です。論文の著者らはこの試みについて非常に深く検討し、可能な限り正確な情報を得るために、できる限りの手順を踏んでいます」
ほかの研究者への「挑戦状」
研究者らが利用したのは、科学団体「パートナーズ・イン・フライト」「英国鳥類学協会」「バードライフ・インターナショナル」のために世界中の専門家が作成したデータセットだ。これら3つのデータを、彼らは市民科学者(今回の場合はアマチュアのバードウォッチャー)によって収集された世界最大のデータベース「eBird」と組み合わせた。
これによってわかったのは、多くの場合、専門家および市民科学者によって集められた密度や個体数の推定値は、互いに比較的似通っているということだった。続いて彼らは、広範な専門的なデータが欠如しているものを含め、そのほかの種についても、eBirdからの情報をコンピューターモデルに入力して個体数を推定した。
研究者らは、自分たちの推定には不確実な部分が大いにあることを認めている。しかし、同研究の強みの一つは、そもそもこの不確実なものを定量化し、数千種もの鳥において個体数の見込みの範囲を示していることだと、IUCNの主任研究員トマス・ブルック氏は述べている。
米コーネル大学鳥類学研究所の保護科学者ケン・ローゼンバーグ氏は、この研究を「大胆な試み」としつつ、推定値には非常に多くの変動幅と不確実性があり、データの解釈には注意が必要だと警告している。
それぞれの種についての個別の数値は信用するのが難しく、世界全体での数値はなおさらだと、ローゼンバーグ氏は言う。「この研究はまるで、ほかの研究者に向けて挑戦状を叩きつけて、この数字が気に入らなければ、もっとマシな数字を出してみろと言っているようなものです」
ブルックス氏はこの論文について、多くの鳥類種がいかに貴重な存在であるか、そして新たな脅威が出現した場合、それぞれがどれだけ危機的な状況に陥るかを明らかにしていると評価している。
「この研究は、わたしたちに自然のはかなさを教えています。わたしたちは環境と、人間がそこに与える影響に常に目を光らせておかなければなりません」
デグルート氏もこれに同意する。「保護するためには、わたしたちはある種が今どれだけいて、増えているのか、減っているのかを知る必要があります。今回の研究は、将来的に個体数を測定するうえで大いに役立つでしょう」
(文 DOUGLAS MAIN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年5月19日付]
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