刃以外は全て紙 発売即完売、貝印の折り紙式カミソリ
刃以外がほぼすべて紙でできている、貝印の「紙カミソリ」の販売が好調だ。2021年4月に発売すると予約分は早くも完売し、増産待ちの状況に。近年のサステナビリティー(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)の流れを受けた「脱プラスチック」の機運にも応えていて、貝印製3枚刃カミソリと比べてプラスチックの使用量を98%削減している(残り2%は紙カミソリ本体のコーティングと、刃との接着で使用)。商品化を発表した時点で既に世界中から大きな反響があり、貝印サイドも驚いたという。
「もともとは、新しいカミソリを考えるという過程で出てきたアイデアでした」と、企画・開発に携わったグループ会社、カイ インダストリーズ研究開発本部の塩谷俊介氏。エコロジーと衛生管理を意識した使い切りタイプを作ろうと考えたときに生まれた案の1つが「紙製」だったという。カミソリは水回りで使う機会が多い。そのぶん、紙製はインパクトがある一方で、使用に耐え得るか不安に感じるのも事実だろう。
実際、「商品化にこぎ着けるまでに2年以上かかり、特に時間を要したのは紙の選定でした」と塩谷氏が話す通り、製紙会社を回って牛乳パックのような耐水コーティングを施した紙を次々に試した。
組み立て方はシンプル、刃の保護シールは強度アップに再利用
組み立て方の開発も難関だった。この紙カミソリは、使用者が組み立てて使う。「開発当初は、アイスクリーム用の紙スプーンのように折り曲げて使う構造を考えていました」と塩谷氏。しかし折り方を簡単にすると強度に支障が出る。かといって複雑な折り方に設計すると扱いにくい。最終的にたどり着いた「最大公約数的な難易度の折り方」(塩谷氏)は、発売前の消費者テストで多くの人が「問題ない」と答えるバランスに。
筆者も実際に試したところ、折り方の説明が紙カミソリ本体に印刷されていて、そこに書かれた番号順に折っていけば問題なく組み立てられた。刃の保護シールははがした後、そる際に力がかかる紙カミソリ本体の首部分に巻き付けて強度を上げるようになっていて、そのアイデアにとても感心した。保護シールを上手に使い回すアイデアも含めて、採用した折り方は塩谷氏も気に入っていると話す。
組み立て前の状態に加え、パッケージのデザインもシンプルながら、機能をきちんと伝えるものに仕上がっている。また、あくまで「カミソリ」であって「ひげそり」ではない、ジェンダーフリーになっている点も素晴らしいと思う。
ぬれた手で握っていても、軟らかくならない
では、肝心のカミソリとしての性能はどうか。この紙カミソリは首部分が動かないし、従来のカミソリには備わっているスムーサー(潤滑剤)も搭載されていない。しかし、そり味は貝印品質として定評のある3枚刃を使用しているだけあって、筆者がひげをそってみたところ、とてもなめらかだった。使いやすさは従来のプラスチック製品と遜色ない印象だ。
むしろ、紙カミソリの握り手が指に沿いやすいからか、刃と指先がうまく一体化したかのように感じて、そりやすかった。ぬれた手で握っていても、紙カミソリがふにゃっと軟らかくなることもない。
「世界に例のない商品なので、耐水性などの基準は当然ありません。そのため品質の確保は苦労しました」と塩谷氏は振り返る。
ムダ毛そりを試してもらった知人の女性からは、「使いにくさを感じることはなかった。5泊程度の旅行の場合、カミソリをわざわざ持っていくのは荷造りが面倒でもありおっくうだったが、組み立て前の紙カミソリは場所を取らず、持ち出しやすい」との声が寄せられた。
記事執筆時点では予約分が完売していて、増産待ち。これは生産をまだ小ロットに絞っているからで、貝印としてはもったいない気がするが、「市場の反応を全く読めない商品だったので、最初から大量生産に踏み切るのは難しかった。海外からの引き合いも多いため、グローバル展開も視野に入れて量産体制を整えていきます」(塩谷氏)とのこと。品切れであって限定生産ではないので、慌てて転売屋から買うことはないだろう。
「アイデアレベルでは以前からありましたが、それを商品化へこぎ着けたことに価値があると思っています」と塩谷氏は胸を張る。5色セットで1100円(税込み)と安くはないが、「使う楽しさ込みの価格だと思ってもらえるとうれしい」(塩谷氏)。冒頭で触れた通り、全世界が脱プラスチックの流れに動いている。さらに今後は空港などでの販売やノベルティとしての利用なども視野に入れて展開していくとのことなので、紙カミソリを男女問わず簡単に入手できるようになれば、使い捨てカミソリはさらに身近になると感じた。
(フリーランスライター 納富廉邦)
[日経クロストレンド 2021年5月18日の記事を再構成]
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