都内ミートソース人気3店 塊肉ごろっ、チーズ山盛り
ペペロンチーノにカルボナーラ、ジェノベーゼ、ボンゴレ……。
すべて「パスタのメニュー」の話をしているのだと、すぐ理解できる日本人は少なくないだろう。それだけ日本人とイタリア料理、特にパスタとの親和性は高い。なかでも「ボロネーゼ」の認知度は絶大だ。元はイタリア北部、ボローニャの伝統料理で、日本に入ってきたのは明治とも大正とも定かではないが「ミートソース・スパゲティ」としておなじみの、ひき肉を煮込んだソースだ。
都内ではここ2年ほど、たらこスパゲティやカルボナーラの専門店がオープンし、パスタが再注目されている。今回は日本のスパゲティの元祖とも言える、ミートソース(ボロネーゼ)で人気の3店を紹介する。
1店目は東京のJR飯田橋駅、目の前の「飯田橋サクラテラス」の2階にある「trattoria Gran Bocca(トラットリア・グランボッカ)」だ。同店を運営するセレソン(東京・渋谷)は、恵比寿の肉バル「Bistro CarneSio(ビストロ・カルネジーオ)」、神田にあるイタリアン「Trattoria Macco(トラットリア・マッコ)」、ホルモン焼き店「好(よし)ちゃん 飯田橋本店」などを展開し、軒並み大ヒット。「ミシュラン星つき店に行くほどではないが、おいしい料理、特に肉とワインを満喫したい」という大人のニーズをつかみ、新型コロナウイルス禍以前は1カ月前でも週末は予約が難しい状況だった。グランボッカもその一つだ。
グランボッカは定番のイタリア料理をそろえ、10種類以上あるパスタのなかでも「和牛のミートソース 自家製タリアテッレ」(ディナー価格、1980円)が一番人気。ミートソースというと具材は細かいひき肉と野菜が中心の印象だが、同店では肉の塊がゴロゴロ入り、味わい深くうま味も濃い。そのソースを自家製の平打ち麺に、たっぷりからめながら食べる。
ソースの秘密を副社長の加藤俊明さんに聞くと、「うちはホルモン焼き店や肉バルを10年以上続けていて、ミートソースもそのノウハウを生かして開発しました。合いびき肉にA5ランクの黒毛和牛のスネ肉をあえて繊維を残したまま加え、赤ワインを大量に使って煮込みます。長時間煮込みすぎると逆にうま味が飛んでしまうので難しいのですが、シェフが毎回最適な火入れで仕上げ、好評をいただいています」と話してくれた。
ミートソースはランチ・ディナーともに提供し、グループ客では必ず1組に1人は注文するという。おしゃれな店だがグルメな男性にもぜひ食べていただきたい、肉感あふれるパスタだ。
2店目は総合スーパーの「イオンスタイル品川シーサイド」(東京・品川)のフードコートに入る「BIGOLI品川本店」だ。「え、スーパー? フードコート?」と、先入観を持たずに、まずはこのパスタも体験していただきたい。
同店は「ミートソースではなく、イタリアの本物の"ボロネーゼ"を広める」ことを信条としている。一部の高級イタリアンでもボロネーゼを出しているが、高い値段でごく小さいポーションでしか提供していない。この味をラーメン店のように気軽に、しかも手ごろな価格で、短時間でさっと食べられる店があったら、と考えたのが出店のきっかけだったという。
「オリジナル」 (S:650円、M:790円)ほか、同じソースにニンニクやトマトを追加した10種類のボロネーゼを提供。削りたてのグラーナ・パダーノ(イタリアのハードチーズ)が山盛りにのせられたビジュアルも人気の秘密だ。
このコンセプトでまず神田駅近くに4坪の店をオープンしたところ、ビジネスマンに大いにウケた。1日8回転する大繁盛店となり、「より多くの方にボロネーゼを知ってほしい」と2017年に現在のイオンに移転した経緯がある。
しかし品川の客層にはまったくハマらず、閑古鳥の状態が1年近く続く。店を閉めようと思った矢先、あるマスコミ関係者が同店について発信したツイッターがバズり、客が殺到した。同店のボロネーゼを食べることを「ビゴる」と呼ぶSNS(交流サイト)の新語も誕生。突然のブレイクから3年たつ現在でも、熱狂的な人気が続いている。
長く続く人気を裏打ちするのは、同店のボロネーゼの圧倒的な商品力だ。「これはフードコートで食べるレベルの味ではない」とSNSでつぶやく投稿も見かけるほどで、肉や野菜の強いうま味を感じるソース、自家製パスタのもちっとコシのある食感など、一度食べると納得するだろう。
「高級リストランテと同じく、機械ではなく手切りした肉を野菜と根気よく炒め、赤ワインをふんだんに使い煮込んでいます。ケチャップで味を付けず、素材の濃厚な味を楽しむソースが自慢です。ミートソースと別物の、本物のボロネーゼをもっと知っていただけるよう、今後も頑張りたいです」とは、BIGOLIの看板女将(おかみ)で「ママ」と親しまれている総支配人の葛井朝実さん。
3店目は東京の東急田園都市線・三軒茶屋駅から徒歩4分、人気飲食店が並ぶ茶沢通りに今年3月末にオープンした「Re.TOSCANA(リ トスカーナ)三軒茶屋店」だ。非常にユニークな店で、ランチはミートソースパスタの専門店、夜はイタリア全20州のナチュール(自然派)ワインと郷土料理を小皿で出すイタリアンバールと、二毛作で運営する(緊急事態宣言中は酒の提供を中止)。
経営母体は「日本一おいしいミートソース」が大ヒットメニューのイタリア料理チェーン「TOSCANA」やイタリアン居酒屋「東京MEAT酒場」を抱える飲食企業、イタリアンイノベーションクッチーナ(東京・渋谷)だ。
新店の「リ トスカーナ」はランチで、この「日本一のミートソース」を"御膳スタイル"で楽しめる。「鶏出汁トマトスープで食べる日本一おいしいミートソース御膳」(1280円)や「茸(きのこ)ソテーの日本一おいしいミートソース御膳」(1380円)など、アレンジを変えたミートソースパスタ7種類を提供。和の定食のように、野菜の小鉢2種をつまみながらメインのミートソースを味わい、最後はだし(鶏だしで炊いたトマトスープ)をかけて食べ切るスタイルだ。
料理が運ばれてくるとパスタの上にはミートソースがなく、見えるのは麺のみ。「この麺は古代小麦など3種の小麦を合わせた自家製の生パスタです。この麺が自慢なので、まずソースの前にパスタそのものを堪能していただきたい」(社長の青木秀一さん)
いろいろ斬新なしかけに中高年は目を白黒させてしまうが、麺もソースも美味。家庭では絶対出てこないプロのミートソースではあるが、どこか昭和の洋食も思い出される懐かしく優しい味だ。取材当日も、昭和生まれ、テレワーク中とおぼしき一人客が複数、うまそうに食べていた。男女の割合は半々くらいだったろうか。シメの鶏だしをかけてパスタをすすると、お茶漬けの郷愁も感じ、「なるほど、これは日本のミートソースの最新形なのだ」と納得した。
「日本一のミートソース、という大胆なメニュー名を付けたのは、取引する食材卸の担当者が、仕事柄様々なパスタを食べたが、うちのミートソースが一番おいしいと言ってくださったからです」(青木さん)
同社のこれまでの店は「男性が居酒屋でおいしいつまみで酒を飲むように、ワインのお供にイタリアンを気取らず食べていただきたい」というコンセプトで作り、ミートソースも酒の最後に、シメのラーメンの代わりにと勧め、ヒットしてきたという。「三軒茶屋店でもオープンからまだ2カ月ですが、多くのお客さまに楽しんでいただいています」(青木さん)
以上、ボロネーゼ(ミートソース)の人気店3店を紹介した。それぞれ魅力的だが、実は都内にはまだまだボロネーゼやミートソースが評判の店がある。カレーやギョーザと同じく、これも日本の最新グルメの1ジャンルとして成立しているのかもしれない。あなたの好みはどれか、探しに出てはいかがだろう。
(フードライター 浅野陽子)
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