2021/6/13

「もちろん、博物館に行けば見られます。ドイツのヴォルフスブルクには、フォルクスワーゲンの博物館がありますしね。でも今では買おうとすると非常に高価ですし、ビートルを所有している人も、ほとんど運転することはありません。けれど、ビートルは運転するために作られたんです。小さいけれど頑丈で、ビートル自身は外を走りたがっています。ですから、メキシコで、特に大都市ではない場所でまだ現役で活躍するビートルを見ると、うれしくなります」

安価で実用的だったビートルは、個人のオーナーだけでなく、メキシコシティのタクシー運転手にも人気だった。あまりにも至る所を走っていたので、メキシコ映画やドラマには付き物になった。

メキシコでは今も現役(PHOTOGRAPH BY ADAM ROSE)

メキシコで、ビートルは「ヴォチョ」という愛称で親しまれている。「ヴォチョを、メキシコの文化と切り離すことはできません。20世紀後半には、通りを歩いてビートルを目にしない日はありませんでした」と、メキシコシティで建築物のツアー会社を経営するニコラス・カイレンス氏は話す。カイレンス氏は、ビートルやワーゲンバスを修理して、市内の建築物案内ツアーに使っている。

以前は米国に暮らしつつメキシコをたびたび訪れていたカイレンス氏は、2008年の金融危機の後、とうとうメキシコへ移住した。そこで古いビートルを購入して、修理した。その後も2台目、3台目、4台目と、次々に購入したものの、どれも気に入って手放せなくなったカイレンス氏は、ビートルへの情熱と、芸術や建築への愛を合体させて、「トラベリング・ビートル」というツアー会社を立ち上げた。

メキシコシティに住むエンリケ・ワンツケ氏はかつて、メキシコで最も古いビートルを所有していた。アボカド色の1950年式で、後部の窓が真ん中でふたつに分かれているスプリットウインドー型と呼ばれるタイプだった。「ビートルは、ガレージに住む家族の一員です」と語るワンツケ氏は、ラテンアメリカでも有名なフォルクスワーゲンのビンテージショー「トレッフェン」の開催に関わっている。「多くの人に愛され、どこの国へ行っても愛称がつけられています。ブラジルでは『フスカ』、エクアドルでは『ピチリロ』、コロンビアでは『プルガ』、ペルーでは『サピート』。そしてここメキシコでは、誰もが『ヴォチョ』に夢中です」

ビートルの幅広い人気の秘密は、その独特の外見にある。「見た人々を笑顔にさせる何かが、この車にはあるんです」と、カイレンス氏。「時代を超越したデザインでしょうか。攻撃性を感じさせない丸みを帯びた形、明るい色、そしておそらくは小型であること」。マクレガー氏も、「感じのいい、幸せの形をしているんです。とても不思議なんですが、機械である以上に、魂があるというか。そう、魂を持っているんだと思います」という。

なぜメキシコでこれほど人気なのか

ナチス・ドイツで生まれ、戦後ドイツを占領した英国の手によって復活し、1960年代には米国のヒッピーの間で人気が高まったビートル。だが、なぜその「余生」をメキシコで過ごすことになったのだろうか。

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「メキシコの歴史の象徴」
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