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「研究室」に行ってみた。

2021/6/14

「研究室」に行ってみた。

これは知っておくべきことだと感じ、発達障害クリニック附属発達研究所の所長で、児童精神科医の神尾陽子さんを訪ねた。神尾さんは、2006年から18年にかけて、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の児童・思春期精神保健研究部の部長として日本の子どもたちの発達をめぐる研究チームを率い、政策立案にもかかわる立場にあった。疑問をぶつけるのに最適な人物だ。

神尾さんのクリニックは、JR神田駅から徒歩5分ほどのビルの4階にあった。エレベーターを降りると、明るい雰囲気のエントランスが見え、その奥にあるカウンセリング室にてお話をうかがうことができた。

まず最初に問うたのは、やはり、自閉症とはなんだろう、ということだ。神尾さん自身、あまり詳しいことを知らない一般の人たちに話をする際には、どんなところから説き起こすのか。

発達障害クリニック附属発達研究所所長の神尾陽子さん。日本の発達障害の研究をけん引する医師の1人だ。

「まず、発達障害というもうちょっと大きな括りから入ると思います。今、日本の国民でその言葉を聞いたことのある人は、7~8割だという調査があって、かなり知られていますから。そして、その発達障害の中に自閉症も入ります。まだ原因などははっきり特定されていないんですが、最近の研究では、もう胎児のときから脳が平均的なものとは違う発達をすることが分かってきています。親や専門家すら気づかないときから、脳の大きさ、神経細胞と神経細胞がつながっていくプロセスなどが、ちょっとずつ違うわけなんです」

神尾さんは尽きない泉のように溢れ出るかのような語り口で、まずは「胎内から始まっている」ということを強調した。ぼくはそのこと自体には納得しつつも、軽く違和感を覚えた。「なぜ、この件を最初に強調するのだろう」と。

尋ねるとすぐに疑問は氷解したので、まずはその点を注釈しておく。

「ちょっと前までは、子どもが自閉症になるのは育て方が悪いからだと言われていたからなんです。つまり、親、特に母親が責められて、愛情が足りないなどと言われてきたので。それは、そうじゃないんだよということは、今も強調する必要がありますね」

ということである。自閉症を含む発達障害は、親の愛情が足りないからではなくて、もっと別のメカニズムが働いている。今でこそ常識になっているが、20世紀には医師もふくめて「愛情の問題」と考える者が多く、親たちは自責の念に駆られ、悩み、絶望することが多かった。また、自らの障害に困っている当事者である子どもたちも、すべて親の愛情だとされてしまうと、本来、学校や地域などで受けられたかもしれないケアを受けられなくなってしまうし、いじめなどの辛い体験をしてしまうこともあっただろう。

では、「育て方」が原因ではないとして、他の環境の問題なのだろうか、それとも遺伝的な問題なのだろうか。本筋に入る前、ここで聞いておこう。

「双生児研究などで分かっているのは、発症に関しては環境よりも遺伝のほうが強く影響しているということです。もちろん、環境要因がないわけではありませんが。これまで、ゲノムの研究で自閉スペクトラム症に関連する遺伝子を見つける研究がさかんに行われ、本当にたくさんのものが見つかってきました。ひとつだけの遺伝子がこうなっていたから自閉症になるというわけではなく、数百以上もの遺伝子が関わっているようです。自閉症という言葉で括ることができるような似た病態に、様々な遺伝子が関わっているわけで、これは裏を返せば、自閉症の中での多様性につながっていると思われます」

自閉症についてのとらえどころのなさというのは、こんな部分に原因があるのかもしれない。にもかかわらず、よくよく注意すれば、ひとつの診断名で語ることができるような共通性があるのだから、ぼくたちの認識としては一まとまりのものになる。

ここで、本筋に戻る。発達障害の中の一つである自閉症とは、どんなふうに発達に問題が出るのか。まさに多様な中の共通性とはなにか。

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