池田エライザ、山田孝之… 映画監督に俳優が続々挑戦
特集 新ヒットメーカーの条件(1)
ここ数年、エンタテインメントの"表"に立つ俳優や芸人などのタレントたちが、映画監督、脚本家、プロデューサーなど"裏方"のクリエーターとして才能を発揮するケースが目立っている。
例えば、auのCMで歌声を聴かせるなど多才な池田エライザは、2020年12月公開の『夏、至るころ』で映画初監督。女優を始めた頃からスタッフ側にも興味を持ち、現場で撮影部スタッフに機材についても教わっていたという彼女は、出演者オーディションにも立ち会うなど、全面的に製作に携わった。
4月2日公開の『ゾッキ』は大橋裕之原作のマンガを竹中直人・山田孝之・齊藤工の共同監督で映画化。俳優監督のパイオニアでもある竹中は『無能の人』(91年)など長編映画監督8作目。俳優としての「斎藤工」とは別名義で監督としても活動する齊藤は、映画祭8冠に輝いた『blank13』などに続き3作目の長編に。また、19年の映画『デイアンドナイト』のプロデュースなども手掛けてきた山田は、これが初の長編監督作品となった。
その山田らが発起人を務める短編映画製作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』(今夏公開予定)では阿部進之介、安藤政信、志尊淳、柴咲コウ、水川あさみ、三吉彩花、ムロツヨシといった俳優が映画監督に初挑戦。池田エライザや齊藤工も名を連ねた。また、のんが監督と主演も務めた初の劇場公開長編映画『Ribbon』も今年公開予定。彼女の監督作はYouTubeで19年に配信された『おちをつけなんせ』に続き2作目となる。
ネットでの制作がきっかけに
芸人では、劇団ひとりがNetflixで配信されるビートたけし原作、大泉洋・柳楽優弥W主演の『浅草キッド』(今冬配信)で脚本と監督を担当する。大泉洋とのタッグは、自身の小説を映画化した14年の監督デビュー作『青天の霹靂』以来となる。
脚本家として活躍しているのがバカリズム。20年に映画版が公開された『架空OL日記』などに続き、5月公開の永野芽郁主演映画『地獄の花園』で脚本を担当。「ヤンキーものを」という依頼をバカリズムのアイデアで「OL×ヤンキー」という独特の世界観に昇華させた。
漫才やコントのネタ作りを担当する芸人が脚本に参加したドラマも増えている。1月期の『でっけぇ風呂場で待ってます』では、じろう(シソンヌ)、賀屋壮也(かが屋)、秋山寛貴(ハナコ)、水川かたまり(空気階段)が週替わりで脚本を担当。『京阪沿線物語~古民家民泊きずな屋へようこそ~』ではNON STYLEの石田明が初めてドラマ脚本を手掛けた。
音楽の分野では、アーティストらがプロデュースに乗り出すケースも増加。アイドルグループ「=LOVE」を手掛けるのが指原莉乃。4月7日には、妹グループ「≠ME」がメジャーデビューを果たす。また、AAAのメンバーであり、ソロのラッパーとしても活動するSKY-HIは自ら私財を投じ、オーディションからボーイズグループを育成する「THE FIRST」を始動した。
こうしたタレントたちのクリエーター進出について、『君の膵臓をたべたい』などのヒット作を多数手掛けた映画プロデューサーの春名慶氏は「TikTokやYouTubeで配信する人が増えて、映像作品制作へのハードルが下がったことが背景にある」と指摘。初めてドラマ脚本を手掛けたハナコの秋山寛貴も「YouTubeで週2本コントを作り続けたことで鍛えられた」と語る。ネット向けのコンテンツで企画や制作を自ら手掛けるタレントは続々と増えていることから、この流れはまだまだ続きそうだ。
(ライター 高倉文紀)
[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]
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