スカイ島のウォーターニッシュ半島にある「ザ・ルックアウト」は、沿岸警備隊の駐屯所だった建物を改装して作られたセルフケータリングの宿泊施設(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER TURNER, GUARDIAN/EYEVINE/REDUX)

今もゲール語が息づく島

スカイ島の景観に精通している人物といえば、広さ93平方キロの私有地アイリーン・ヤーメインで猟場の管理人を務めるスコット・マッケンジー氏だ。この土地の名は、1746年、カロデンの戦いの後に若僭王(じゃくせんおう)ことチャールズ・エドワード・ステュアートの逃亡を助けたフローラ・マクドナルドが身柄を拘束された場所として、広く知られるようになった(フローラは後にロンドン塔に送られている)。

鹿撃ち帽などのハイランドの服装に身を包んだマッケンジー氏は、敷地内に立つ小さなホテルの管理を手伝い、近くのスレート村に古代から残る森林の保護に努めている。ほぼ10年にわたってこの土地を管理してきたマッケンジー氏は言う。

「以前よりも多くの人がスカイ島を訪れるようになりましたが、たいていは1日か2日だけで帰ってしまいます。もっと長くここに滞在して、ゆっくりと見て回ってほしいと思っています。1週間は十分に見て回れるだけのものがありますから」

スカイ島は、スコットランドで今もゲール語が話されている数少ない場所のひとつであり、現在も6万人のネーティブスピーカーがいる。ゲール語が今後どういう運命をたどるのかはわからないが(1981年から2001年の間に、ゲール語話者は30%減少した)、この伝統的な言葉は、島の生活と風景に深く刻み込まれている。

「スカイ島ではゲール語をいたるところで目にします」と、アイリーン・ヤーメインの所有者であるレディ・ルシラ・ノーブル氏は言う。「道路標識はもちろん、山、島、小川の名前にもゲール語が使われています」

人々が自宅から外の世界への憧れを募らせている今、スコットランドの荒々しい島々は、ソーシャルディスタンスを保って自然に浸れる場所の象徴のような存在だ。ただし、とマッケンジー氏は言う。「スカイ島は、世間で思われているような不毛な荒野ではありません。ここは常に進化を続ける活気に満ちた場所なのです」

自然が生み出す岩の造形、池が点在する円すい形の丘、そこここに散らばる滝に出会えるのが、まるで空想の世界のように美しいスカイ島のフェアリー・グレン(妖精の谷)だ(PHOTOGRAPH BY RUBEN GALVEZ, ALAMY)

1億6500万年前の恐竜と巨人の名残

旅の最後に訪れたスカイ島最北端のトロッターニッシュ半島には、時の足跡がはっきりと記されている。骨に沿った裂け目のように大地を切り裂いているのは、クワランと呼ばれる、古代の大規模な地すべりの痕跡だ。ここは現在でも、英国で最も地質学的に活発な地域のひとつであり、火山岩である玄武岩の層の下では土地がゆっくりと崩れ続けている。一帯が徐々に沈下しているため、周辺の道路は毎年修理が必要になるほどだ。

古代の痕跡はトロッターニッシュのそこここに見られる。スタッフィンでは、1億6500万年前の恐竜の足跡を探しながら干潮の浜辺をのんびりと散策できる。メルト滝は、地の果てのような切り立った崖から海に向かって轟々(ごうごう)と流れ落ちている。

何よりも興味深いのはオールドマン・オブ・ストーだ。このそそり立つ岩は、死んだ巨人の名残とも言われている。丘の斜面をのぼり、ドクロのように白いマツの切り株を踏み越えて、岩に向かって歩いてゆく。あたりは静寂に包まれ、聞こえるのはただ、ハイカーたちの荒い息を奪ってゆく薄く冷たい風の音だけで、上空を飛び回るカラスさえ声を立てない。

この高みにいるとスカイ島は記憶のかなたとなり、まるで神話そのもののように遠く感じられる。頭上には、太陽の光に貫かれた雲が空を漂う。雲はしかし、現れたと思ったとたん、またたく間に風に乗って消えていった。まるで戦士の女王から逃げ去る敵のように。

(文 CONNOR MCGOVERN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年5月10日付の記事を再構成]

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