スカイ島は英国本土と橋でつながっている

エルゴール村へ向かう道を外れたところにあるジュエリー工房「ダンカンハウス」では、ガース・ダンカン氏が、華やかな自作のケルト・ジュエリーを見せてくれる。ブローチ、紋章、指輪といった品々には、曲がりくねった複雑な模様が施されている。

母国の米国で銀細工の技術を学んだダンカン氏は、20年前、古い血縁に引かれてスカイ島に移り住んだ。「父方の家系がスコットランドにつながりがあるのです。以前はまったく興味をもっていなかったのですが、あるときよく調べてみたところ、自分がこの古代の伝統を守りたいと思っていることに気がついて、こうした作品を作りはじめました」

「今ではほかの場所に住むことなど考えられません」とダンカン氏は言う。「このひっそりとした場所にいるのが好きなんです。エルゴールまで行かなくとも、村のうわさは全部伝わってきますから」

次は小さな港町エルゴールに向かい、船旅専門の代理店「ミスティ・アイル・ボート・トリップス」を訪ねて、さらに人里離れた場所にあるコルイスク湖を目指す。

エルゴールから海をわたった向こう側にあるこの湖へ行くには、船を使うのがいちばん早い。さもなければ、ここから16キロのルートを歩くしかなく、途中には「バッド・ステップ」と呼ばれる、岩の斜面をはうように進む場所もあるとなれば、この方法がいちばん手軽でもある。

船上で双眼鏡を手にした代理店オーナーのシーマス・マキノン氏が、アザラシやカツオドリを指さした。

「あそこを見てください! はやく!」。2頭のミンククジラを見つけたシーマス氏が叫ぶと、一瞬見えたその姿に、ほかの乗客たちが息をのむ。クジラを見られるかどうかは運次第だと、シーマス氏は言う。

スカイ島最西端に位置するニースト・ポイントは、クジラ、イルカ、ネズミイルカ、日なたぼっこをするサメを見るには絶好のスポット(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER TURNER, GUARDIAN/EYEVINE/REDUX)

幻想的な水の住人たちに出会えるかどうかも、同じく運次第だ。「コルイスク湖にはウリシュクがいると言われています」と、シーマス氏の息子サンディ氏が言う。「体の半分が人間、半分がヤギのウリシュクは、不運をもたらすと言われています。もしウリシュクに見つかっても、ここへは連れて帰らないでください。一切かかわりたくありませんから」

魅力あふれるコルイスク湖は、ドラマチックさと静謐(せいひつ)さをあわせ持っており、暗く静かな鏡のようなその湖面には、荒々しいクィリンの山々がデジタル画像のような鮮明さで映り込んでいる。あたりには大きな岩がペーパーウェイトのようにぽつりぽつりと転がり、ウミワシのかすかな鳴き声が山々にこだまする。

この荒々しい情景を、スコットランド人作家のサー・ウォルター・スコットは、1814年の詩「ロード・オブ・ジ・アイルズ(諸島の主)」の中でこう描写している。「人の目がこれまで、あの恐ろしい湖ほど峻厳(しゅんげん)とした光景に出会ったことはほとんどない」

一方、詩人のアルフレッド・テニスン卿はさほどの運には恵まれず、その30年後に湖を訪れたときには、「分厚いウールのような白い霧」以外はほとんど何も見ることができなかった。

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今もゲール語が息づく島
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