免疫低下を防ぐために、自分でできる対策は?

こうした心理的なアプローチのほかに、ストレスによって低下する免疫を維持、あるいは高めることができるセルフケアとしては、リラクゼーション法やある種の食品成分の摂取がありそうだ。

1.リラクゼーション

うつの症状の一つに不眠があることからわかるように、心理的ストレスが高くなると、夜の眠りに問題が起こる。睡眠障害そのものも、免疫低下を引き起こす。「就寝の90分前に入浴すると眠りの質が高まる。風呂によるリラクゼーション作用で副交感神経が優位になり、水圧による血液循環の促進で筋肉の疲労も和らぐ」(清水さん)

健康な男性10人(平均年齢33.6歳)が温泉浴(入浴温度40~41度、10分間の入浴)の前後で唾液SIgAを測ったところ、入浴前と比較して入浴後にSIgA分泌速度が有意に増加した[8]。「免疫にもプラスに働くので、アスリートには、夏場でも毎日バスタブ入浴を薦めている」(清水さん)。入浴以外にも、香り(アロマケア)やマッサージなど自分に合う方法を探してほしい、という。

2.食品成分

免疫維持、ストレス改善、それぞれのキーワードで取り上げられることが多い食品成分に乳酸菌類がある。

心理的ストレスによって低下する粘膜免疫を守るという視点で探すと、例えばSIgAの分泌を高める機能を持つ乳酸菌「b240」に着目し、高齢者の風邪発症抑制について調べた研究がある。65歳以上の高齢者300人が摂取し、風邪発生率が大幅に抑えられたという[9]。

心理的ストレスの改善と免疫指標の変化を見た「ラクトバチルスプランタラムPS128」という乳酸菌もある。IT企業で働く人36人が毎日摂取したところ、ストレススコアが下がり、ストレスホルモンの値も有意に改善した。しかし、この試験では唾液中SIgAには有意な変化がなかったため、免疫への影響を検証するには追加の試験が必要となる[10]。

コロナ禍のソーシャルディスタンスによる孤独感が心理的ストレスとなり、腸内細菌叢に悪影響が及び炎症を引き起こすことを危惧する報告も発表された[11]。有用菌を日常的にとることによって腸内細菌叢(そう)の健康を維持することが、ストレス耐性を高め免疫低下を防ぐことにつながる可能性もある。

「乳酸菌は、心理的ストレスが高まる時期の1カ月ほど前から継続的してとると、免疫機能を高く保った状態で目的の時期に臨める」(清水さん)

このほか、免疫維持に役立つという研究報告が世界で多く発表されている食品成分の代表としてビタミンDが挙げられる。抗菌機能を持つ抗菌ペプチド、ディフェンシンの産生には、血液中に十分な量のビタミンDがあることが必要とする研究もある[12]。ディフェンシンは、SIgAとともに粘膜免疫で重要な働きをする免疫物質なので、ビタミンDは不足のないよう補いたい。

一方、「ストレスの軽減に役立つ」と記された機能性表示食品も200種類以上出ており、機能性成分としてはGABA、L-テアニンを使用するものが多い。しかし、それぞれの届け出情報では、ストレスを軽減することで免疫低下が防げるかどうかはわからない。

また、ストレス負荷を和らげることと、病原体を攻撃するプロセスで起きる過剰な炎症(サイトカインストーム)を防ぐ働きで注目される栄養素には、オメガ3脂肪酸(DHA=ドコサヘキサエン酸、EPA=エイコサペンタエン酸)がある。オメガ3脂肪酸を新型コロナ感染症の流行中は十分に補給すべき栄養素として推奨する研究も多い[13]。

138人の座りがちな生活をしている肥満の男女を対象に、オメガ3脂肪酸を高容量(1日2.5g)、4カ月とった研究では、オメガ3脂肪酸摂取群で、ストレス時に増えるコルチゾール値と炎症マーカーであるIL-6が偽薬をのんだ群と比較してそれぞれ19%、33%低下した[14]。つまり、オメガ3脂肪酸をとると、ストレスからの修復メカニズムを高め、過剰な炎症が低減される可能性がある。

ヨーグルトや乳酸菌飲料、ビタミンDとオメガ3脂肪酸それぞれを豊富に含むサケなどの魚類は、ストレス・免疫対策として積極的にとりたい。難しい場合は、こうした成分が強化された食品やサプリメントの活用を。

過大なストレスを抱え込む前に、気分転換、リラックス、休養に努め、体内から役立つ可能性がある食品を積極的にとり入れて、ストレスケアと免疫アップを目指したい。

[8]日温気仏医誌第70巻3号,2007

[9]Br J Nutr. 2013 May 28;109(10):1856-65.

[10]Front Nutr. 2021 Mar 26;8:614105.

[11]Front Psychiatry. 2021 Mar 25;12:648475.

[12]Proc Nutr Soc. 2012 Feb;71(1):90-97.

[13]Nutrients. 2020 Apr 23;12(4):1181.

[14]Mol Psychiatry. 2021 Apr 20.

(ライター 柳本操、イラスト 三弓素青)

清水和弘さん
ハイパフォーマンススポーツセンター国立スポーツ科学センタースポーツ研究部先任研究員。筑波大学大学院修了後、早稲田大学、筑波大学を経て現職。アスリートの免疫機能評価法、感染防御対策の研究を行う。2012年ロンドン五輪で日本代表をサポート。免疫機能の簡易測定キットの開発も手がける。オリンピック・パラリンピックの選手村村外サポート拠点(ハイパフォーマンス・サポートセンター)の運営責任者も務めた。
中田光紀さん
国際医療福祉大学大学院医学研究科公衆衛生学専攻疫学・社会医学分野責任者。赤坂心理・医療福祉マネジメント学部長・心理学科長。早稲田大学人間科学部卒業、東京大学大学院医学系研究科で社会医学を専攻し医学博士号取得。元米国疾病予防センター国立労働安全研究所チーム・リーダー、産業医科大学教授などを経て2018年より現職。社会的時差ぼけ改善のための介入試験、血液や爪などを利用した慢性ストレス測定法の研究を行う。
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