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アート&レビュー
エンタウオッチング

2021/5/31

エンタウオッチング

自然の中の「知」を求めて

鳥とは無縁だった子どもが、大学で鳥の研究を始めたのも、小笠原諸島の鳥を専門にしたのも「すべて偶然」と言う。著述業のほか、トークも流ちょうだが、「僕の先祖が、書いたりしゃべったりするのが得意だったんでしょう」と笑う。

「楽しくできる仕事に就けて、僕はラッキーでした。鳥の研究で飯が食っていけるなんて、最高ですよね。鳥類って、エンタテインメントだと思うんです。武道館をいっぱいにするのと同じくらいの気概で、僕たちは山を登って鳥を捕まえているんです。特集を組んでいただいてもいいですよ(笑)」

鳥のことを考えるのが楽しい。データを見て、これは何を意味しているのだろうと考え、そこから答えを探し出す。「彫刻家が石の中に潜む“美”に仕えるように、研究者は自然の中に潜む“知”に奉仕するのだ」と川上は書く。生物の絶滅は、この「知」の源泉が世界から完全に消滅することを意味する。知りたい。考えたい。それこそが人間の喜びなんだ、と。

最後に、聞いてみる。鳥の、どういうところが面白いのか?

「飛んでるところ! それがすごい! 映画『未来世紀ブラジル』でも、翼をつけて飛ぼうとしたじゃないですか。本当は誰だって飛びたいけど、できない。それを鳥は、平気な顔してやるんですから」

鳥を見る目が変わる傑作だ。

『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』
大噴火した西之島での上陸調査に参加を果たし、南硫黄島での調査船ではドローンを飛ばし、研究室で「絶滅ごっこ」に夢中になる――。『スペースコブラ』『スーパーマン』『スター・ウォーズ』をはじめ、全編に映画やアニメ、マンガの話題が多数、ランダムに登場するが、「僕の中で、『これは歴史に残ったな』という不朽の名作しか出していません。この分野では金字塔!というもの。ただ、その分野自体がマニアック、ということはありますが(笑)」(エッセー/新潮社/1595円)

(ライター 剣持亜弥)

[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]

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