常識覆すドキュメント 作り手、ディレクターの思いは

日経エンタテインメント!

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今年の正月明け、1本のドキュメンタリーが大きな反響を呼んだ。それが1月6日に『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)内で放送された、伝説的パンクバンド「オナニーマシーン」でボーカル兼ベースを担当するイノマーのガン闘病記だ。2年間の密着映像をまとめた番組は、普段の地上波では見られないシーンの連続に。彼の生き様をそのまま伝えるため、放送禁止用語が入った楽曲をなけなしの力を振り絞って歌う壮絶なラストライブや、病院で危篤状態に陥り、家族の悲痛な叫びのなか絶命していく最期の瞬間までもオンエアされたのだ。放送直後から、ツイッターには様々なコメントが寄せられ、“イノマー”がツイッターの世界トレンド1位を獲得するほどだった。

1989年生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業後、2011年にテレビ東京に入社。グルメドキュメンタリー『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』の企画、演出、撮影、編集まで全てを担当する。また同名の書籍を20年3月に上梓(写真:Yusuke Abe)

この映像を撮影したのが、今年32歳になるテレビ東京のディレクター上出遼平。彼はこれまでもテレビの常識を覆す作品を世に送り出してきた。その筆頭が2017年から不定期特番とし放送する、過激なグルメドキュメンタリー番組『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』。“世界中のヤバい奴らの飯を通してリアルに迫る”を掲げ、「リベリア 人食い少年兵」「ロシア 極北カルト教団」といったテーマで、世界中のディープな地域に自ら出向き、撮影も行っている。

いずれも熱く支持される番組を生み出すテレビ界の異才は、何を撮りたいと考えてきたのか。イノマーのドキュメンタリーについては、そもそも個人的な親交があったことがきっかけだという。

「中高大とずっと勉強はしていたんですけど、中3ぐらいの時からちょっと素行が悪くなっていって……。というのも、兄や周りの友達の影響で、セックスピストルズやクラッシュ、日本だとスターリンなどのいわゆるパンクロックを聴き始め、鋲を打った革ジャンに金髪のモヒカンみたいな見た目になるほど傾倒していきました。

オナマシ(オナニーマシーン)のライブには中3の時に初めて行って、最初は驚くことばかりでした。僕はもともと下ネタが苦手だし、どちらかというと潔癖。しかし彼らの曲は本能丸出しの生臭い歌詞で、会場にいるお客さんは顔中ピアスだらけの人や世捨て人風とか、これまでに味わったことのない独特な雰囲気が広がっていたんです。恐怖心もありましたが、ワクワクのほうが大きくて。“正しいことが正しい”と言われてきた15年間だったんですけど、そこには“別に間違っていてもいい”みたいな世界があったというか。

そこで、高校に入って幼なじみとバンドを組もうとなった際に、イノマーさんにバンド名を付けてもらおうと思いまして。ライブの出待ちをして『名前を付けて下さい』と言ったら、『じゃあお前らはタンポンズだ』と。そこからちょっと僕らの青春時代が汚され始めました(笑)。バンド自体は1年くらいしか続きませんでしたが、イノマーさんは最初のライブにも最後のライブにも来てくれました。バンドを解散した後も、オナマシのライブには通い続けてて。本当はダメなんでしょうけど、高校生なのに朝まで打ち上げにいさせてくれたり。すごく優しくて心遣いのある人でした」

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病院に泊まり込んで撮影
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