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常識覆すドキュメント 作り手、ディレクターの思いは

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

今年の正月明け、1本のドキュメンタリーが大きな反響を呼んだ。それが1月6日に『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)内で放送された、伝説的パンクバンド「オナニーマシーン」でボーカル兼ベースを担当するイノマーのガン闘病記だ。2年間の密着映像をまとめた番組は、普段の地上波では見られないシーンの連続に。彼の生き様をそのまま伝えるため、放送禁止用語が入った楽曲をなけなしの力を振り絞って歌う壮絶なラストライブや、病院で危篤状態に陥り、家族の悲痛な叫びのなか絶命していく最期の瞬間までもオンエアされたのだ。放送直後から、ツイッターには様々なコメントが寄せられ、"イノマー"がツイッターの世界トレンド1位を獲得するほどだった。

この映像を撮影したのが、今年32歳になるテレビ東京のディレクター上出遼平。彼はこれまでもテレビの常識を覆す作品を世に送り出してきた。その筆頭が2017年から不定期特番とし放送する、過激なグルメドキュメンタリー番組『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』。"世界中のヤバい奴らの飯を通してリアルに迫る"を掲げ、「リベリア 人食い少年兵」「ロシア 極北カルト教団」といったテーマで、世界中のディープな地域に自ら出向き、撮影も行っている。

いずれも熱く支持される番組を生み出すテレビ界の異才は、何を撮りたいと考えてきたのか。イノマーのドキュメンタリーについては、そもそも個人的な親交があったことがきっかけだという。

「中高大とずっと勉強はしていたんですけど、中3ぐらいの時からちょっと素行が悪くなっていって……。というのも、兄や周りの友達の影響で、セックスピストルズやクラッシュ、日本だとスターリンなどのいわゆるパンクロックを聴き始め、鋲を打った革ジャンに金髪のモヒカンみたいな見た目になるほど傾倒していきました。

オナマシ(オナニーマシーン)のライブには中3の時に初めて行って、最初は驚くことばかりでした。僕はもともと下ネタが苦手だし、どちらかというと潔癖。しかし彼らの曲は本能丸出しの生臭い歌詞で、会場にいるお客さんは顔中ピアスだらけの人や世捨て人風とか、これまでに味わったことのない独特な雰囲気が広がっていたんです。恐怖心もありましたが、ワクワクのほうが大きくて。"正しいことが正しい"と言われてきた15年間だったんですけど、そこには"別に間違っていてもいい"みたいな世界があったというか。

そこで、高校に入って幼なじみとバンドを組もうとなった際に、イノマーさんにバンド名を付けてもらおうと思いまして。ライブの出待ちをして『名前を付けて下さい』と言ったら、『じゃあお前らはタンポンズだ』と。そこからちょっと僕らの青春時代が汚され始めました(笑)。バンド自体は1年くらいしか続きませんでしたが、イノマーさんは最初のライブにも最後のライブにも来てくれました。バンドを解散した後も、オナマシのライブには通い続けてて。本当はダメなんでしょうけど、高校生なのに朝まで打ち上げにいさせてくれたり。すごく優しくて心遣いのある人でした」

病院に泊まり込んで撮影

18年1月に突然、オナニーマシーンのマネジャーから「闘病中のイノマーを撮影してくれないか」と連絡があり、そこから彼を追いかけることになったという。

「当時、既に『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』を放送していたこともあり、『見覚えのあるやつがテレビでなんかやってるぞ』とマネジャーさんが気づいてくれたみたいで。ただ、イノマーさんには10年くらい会っていなかったのもあり、最初は僕も気が進まなかった……。『家、ついて行ってイイですか?』でも使われていましたが、喫茶店にいるイノマーさんに初めて会いに行った時は不安で一杯でしたね。ただ、イノマーさんの第一声が、『おまえAV監督みたいだな(笑)。タンポンズだろう』と。覚えてくれていたのは、すごくうれしかったです。

当初はライブのタイミングでお邪魔して撮ったりしていました。ただ、18年10月の豊洲PITのライブ後にイノマーさんの体調がガクンと悪くなり入院してからは、僕も病院に泊まりながら、身の回りのことを手伝いつつ撮影をしました。さすがに、『お前、仕事大丈夫か?』とイノマーさんも気遣ってくれるほどでしたね。

彼はガンで舌をほとんど摘出しているため、言葉をうまくしゃべれない。そのため意思疎通ができる人が減っていくなかで、しつこいくらいに病室に居座る僕の存在がだんだん意味を持っていったのかなと思います。いわゆる一般的な取材者と取材対象者という関係とは異質なものになっていました。だからこそ、ステージの上でカッコいい姿を見せ続けてきた人間からすると、闘病中の見せたくない姿はたくさんあったと思うんですけど、それさえも撮影することを許してくれたのかなと。

彼の最期のシーンは、正直やっぱり録画を止めそうでした。僕も人が死ぬ瞬間に立ち会ったことがなくて、まさにその瞬間なので。それを撮るなんてことは前代未聞だろうけど、ここまで撮ってきて、この瞬間に録画を止めたら、僕もう一生ダメだろうなと思ったんです。ここで止めたら、自分はなんのためにここにいたのか分からなくなってしまう。ドキュメンタリーを撮る人間として。使う使わないは後で考えればいいと自分に言い聞かせて回しました。

本来、この映像は『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』で流そうと思っていたんですけど、編成からOKが出なくて。そんななか、イノマーさんの1周忌だった昨年末に、もともと放送された『家、ついて行ってイイですか?』のイノマーさんの回(※)を、『TVerとかで再配信できませんか?』と、プロデューサーの重定(菜子)先輩にチラッと言ったんです。すると、『だったら、ちゃんと上出が撮ったやつを使って、何かやったらいいんじゃない』と。地上波ではギリギリのシーンも多いんですけど、重定先輩が覚悟を持って編成に掛け合ってくれたみたいで、すごく感謝しています」

※20年4月6日放送分。(取材日の19年12月23日に)下北沢駅で出会ったヒロさんの家に付いていったところ、4日前にパートナーのイノマーさんが亡くなったことが明かされていった。

彼がテレビ界を目指したのは、大学時代の経験が大きい。早稲田大学法学部に入学し、少年犯罪などを学んだり、NGOに参加して海外にも行ったそうだ。

「大学の授業は、常に1番前の席に座るほど真面目に受けていましたね。法学部で少年犯罪を学ぼうと思ったのは、自分も高校時代に荒れた時期があったことも大きい。勉強のため、全国の少年院や刑務所などを回ったんですけど、『困った奴と言われている人は、困っている奴なんじゃないか』ということが、自身の経験も含めて改めて理解できました。20歳頃からはNGOにも参加し始め、中国のハンセン病の隔離村に行くように。不勉強から生まれる差別の実態を目の当たりにして、考えさせられることは多かったですね。

テレビ界を目指した理由は、こういった経験を積むなかで、人に何かを知ってもらうことがどれだけ大切かを痛感したから。それを背負えるのはメディアしかないなと。ただ、正直テレビは『NHKスペシャル』と『金曜ロードショー』しか見てなかったんですけど(笑)、それも正直に話した上で、面白がって採用してくれたのがテレビ東京でした」

入り口と違う出口を作る

2011年に入社後、バラエティ制作班に配属。『世界ナゼそこに?日本人』(現『ナゼそこ?』)といった番組に携わってきた。実はそこで培った経験が、上出が生み出す作品に生きているという。彼の名を広く知らしめた『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』は、あえてナレーションを入れず必要以上に説明しない、現地の人を主人公にしたストーリーにするなど、様々なこだわりを持って作られている。なかでも常に意識しているのが、「ちゃんとエンタテインメント作品にする」ということだそうだ。

「正直な話、世の中のドキュメンタリー作家の9割は人に見てもらえないものを作っていると思っています。視聴者に伝えるための策を最大限練らないといけないのに、作り手の正義や社会的意義を優先してしまっている。見てもらえなければ正義もクソもありません。まずは面白くないといけない。その点僕は、バラエティ畑で育ったこともあって、そういう文法みたいなものが体に染み付いている。どうやったら飽きさせないかを最低限は心得ているつもりです。

大事なのは、入り口と違う出口を作ること。17年の初回に放送したリベリアの話では、内戦が続いた結果、人食い少年兵まで生まれてしまった過去の歴史を冒頭で持ち出し、視聴者の興味を引くようにしています。その後に墓地に住む、元少年兵らに会いに行っていますけど、人を食べたという話は全くしていません。メインに描いているのは、主人公となる元少女兵士・ラフテーの日常です。

僕がやりたかったのは、『彼らと、僕らの違いってそんなにないかもしれませんよね』という問い掛け。むしろ逆のことを言っているんです。めちゃくちゃヤバい人たちが出てきますという入り口を作れば、受け手としては『こういう話なんだろうな』って想定するじゃないですか。ただ、それがそのまま出てきても、ワクワクはないんですよね。あえて違う出口、つまり裏切りを用意することで、想定外の感情が生まれ、見た人の印象に強く残る作品になるんじゃないかなと思っています」

一方、テレビマンとして現在興味のある分野を聞くと、「音声メディア」という答えが返ってきた。

「様々なプラットフォームが増えて、『テレビはオワコンだ』とか言われることもありますけど、それでもやっぱり、今まで積み上げてきた蓄積がテレビ界にはあるわけで。それを生かしながら、時代にアジャストしたコンテンツを生み出すことで、お金を稼いでいくしかないと思うんですよね。

そういう意味では、YouTubeやNetflixなどの台頭で、映像業界が飽和しちゃってる現在、音声コンテンツのほうがまだ、ブルーオーシャンに近い気がしています。最近は僕自身が触れるメディアとして、ラジオやポッドキャストのプライオリティーが上がっていることもあるんですけど、僕が作るドキュメンタリーは、実は音声と相性がいいんじゃないかなと前から思っていたんです。映像だとテレビモニターを間に挟むため、どうしても境界線が生まれて違う世界の話のままになってしまう。ただ音声だと鼓膜に直なので、シームレスな追体験が可能になるんじゃないかと。

そんな時に、コロナで海外ロケができない状況となり、日本国内で音声ドキュメンタリーを録り始めたんです。既に、右翼と左翼をテーマにしたものや、日本のセックスワーカーに焦点を当てた作品を制作しています。そしてそれらの作品を、4月末からSpotifyで『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』として、ポッドキャストで配信し始めました。テレビ東京とSpotifyがタッグを組んだ 、"超没入型突撃音声ドキュメンタリー"に仕上がっているので、ぜひ聴いてもらえるとうれしいです。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2021年4月号の記事を再構成]

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