中村さんのオフィスの机には制作のための資料が山積みだ。

中村さんにとっては、無価値で捨てられるものこそ実は価値の宝庫で「ダイヤモンドの原石」。世の中で不必要だと思われているものの中から原石を発見し、磨いて新しい価値を生むエネルギーが「これからの豊かさ」を作り出すことにつながると語る。

アップサイクルと並行して挙げられるもう一つの特徴は「透明」であること。「きれいなものは色を付けてしまえば作ることができるし、技術的にも透明を作り出すことが一番難しい。だからこそ透明に価値があり、透明が最もラグジュアリーなものだと信じています」。

そしてこうも続ける。「自分が作った物や、自分がかっこよくなったりハッピーになったりする行為の裏側で、誰かが傷ついていたり世の中に負荷をかけたりするのは絶対にいけないので、見た目だけでなく制作や廃棄の過程でも透明であることを意識しています」。誰がどんな素材で、どんなふうに作っているのか、そして使われた後はどのように再利用されていくのか、作品の過去・現在・未来の全てにおいて透明性を追求する。

そうして生まれた「透明なワニ革」はバッグやジュエリー、カトラリーやメガネといった一連のコレクションに派生、ソーシャルな視点を持った「透明な何か」は中村さんの作品の代名詞となった。

「透明なワニ革」からカトラリーやメガネなどを制作した=中村さん提供

10年前、高校生だった中村さんが「出待ち」をしたことがきっかけで交流が始まり、今日までずっと中村さんの活動を見守ってきた、世界的に活躍する日本画家の千住博さんは、作品がさまざまな場所で評価された理由をこう分析する。

「人間の物欲を否定することなく、それが持続可能なリサイクルの輪の中に入る可能性を示す優れた未来志向の提案です。地球環境、企業、人の心の全てにおける『豊かさ』の同時成立を模索するスマートなアイデアだと認識しています。これは簡単なことではありませんが、その一つの可能性を示す傑作です」

そして「暖君の面白さは、欲に懊悩(おうのう)する人の側に立つ勇気を常に忘れないことです。同じ側に立ち、同じ目線を忘れず、しかもそれをポリティカリーコレクトネス(政治的正しさ)の立場から解決しようと思考できる柔軟性が彼の魅力です」と期待を寄せる。

夢は「50歳で自分の博物館を持つこと」

コロナ禍で制作したガラスの指輪。「2ミリメートルのソーシャル・ディスタンス」として、エレベーターのボタンなどを触れるときに使うことを想定=中村さん提供

新型コロナウイルス感染拡大が始まった昨年は、医療用ガラスで指輪を制作、販売した(現在は完売)。「2mm Social Distance Ring」と名付けられた作品は、エレベーターのボタンなど不特定多数の人が触れる部分をガラスの指輪で押し、「指先を美しく守りたいという思いで設計した」という。一般に推奨される2メートルではなく2ミリメートルの距離でできる新しいソーシャル・ディスタンスの形を表現した。

中村さんは「コロナ禍において何かを作ること、表現することは、クリエーターとして何ができるかという問いに答えること。ですが作品を発表して何か方向性を示すということは、良くも悪くもすごく暴力的な行為だと思っています」ときっぱり。それゆえ、作品が受け手にどのような印象を与えるのかは、毎回神経をすり減らしながら思考を重ねる。

例えば指輪の場合、作品のタイトルやキャッチコピーに「ディスタンシング」や「ディスタンス」という言葉を使うことで、マイナスのイメージを与えてしまわないか、デザインの意図は正しく伝わるのかなどを、各分野のスペシャリストである医師、通訳、コピーライターにも意見を求めながら納得のいくまで整理した。

「クリエーターは危険ですごくデリケートな仕事。なぜなら間違ったものでさえ美しくすてきに見せることができてしまうから。だからこそ、世の中の声を聞いて正しい情報を知り、それをアップデートしていくことは、クリエーターとしての自分の義務」だと中村さんは強調する。

現在進行中のプロジェクトは透明な香水。「2年挑戦しているんですけど、あまりうまくいってなくて」と苦笑するが、いつか必ず形にすると、もちろん諦めるつもりはない。「夢は50歳で自分の作品を展示する博物館を持つこと」。そこにはどんな「透明な何か」が並ぶのだろうか。

(ライター 橋口いずみ)

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