透明なワニ革で問いかけた社会課題 26歳クリエータークリエーター 中村暖さん

クリエーターの中村暖さん
クリエーターの中村暖さん

「アップサイクル」や「透明」をキーワードに、ジュエリーなどの作品を発表しているクリエーターの中村暖さん(26)。代表作は「透明のワニ革」。ポリ袋に使われるプラスチック素材を溶かし、クリスタルのように輝く「ワニ革」としてよみがえらせた。作品に対する評価は高く、コロプラ社長の馬場功淳氏が設立した、クリエーターの活動を支援する「クマ財団」第1期(2017年度)奨学生に50倍以上の倍率を突破して選ばれ、同じ年、作家の辻仁成氏が主幹のコンペティション「アート&デザイン新世代賞」でも500作品以上の中から初代最優秀グランプリに輝いた。

代表作の「透明のワニ革」=中村さん提供

受賞をきっかけに広く注目されるようになった中村さん、その活躍のフィールドは幅広い。アーティストとして創作活動を続けながら、5年前に立ち上げた広告会社「DAN NAKAMURA」の代表を務め、最近では経済誌でコラムの執筆をしたり、企業や自治体からの依頼を受けてアートディレクションやロゴデザインを手掛けたりもする。「世の中の事象や自分が表現したいことに合わせて肩書を使い分けている」と言うように、複数の顔を持つスタイルを続けている。風変わりな若手クリエーターはどのようにして生まれたのか。

きっかけは高校時代の世界一周

中村さんは高校1年生の頃、ふるさとである佐賀県の海外派遣事業で世界一周を経験した。教科書やテレビを通して見るだけだった貧困やテロの現場を目の当たりにし、その様子をリアルタイムでブログやSNSにアップした。しかし、それに対する友人の反応に、ちぐはぐな感覚を覚えた。

「画面の向こうで悲しんでいる人がいても、友人は自分のスマホの画面が割れたことの方を悲しく感じていたんです。もちろん自分に身近な出来事を悲しく感じるのは事実ですが、その悲しみの捉え方に違和感がありました。どうしたら誰かの悲しみも、自分の悲しみのように捉えられるのか。誰かの悲しみを自分事のように感じることができるようになれば世の中は良い方向にいくんじゃないのか、ということを考え始めました」

その答えを探すため、京都造形芸術大学(現京都芸術大学)の空間演出デザイン学科空間デザインコースに進んだ。同コースは、社会の課題解決という視点でデザインを学ぶ。デザイン対象となる空間の定義は、学生が自分で自由に決めることができた。周りが都市空間や居住空間を選ぶ中、中村さんがデザインしたいと見つけたのは人間に一番近い空間である「皮膚より0.2ミリの空間」、ジュエリーだった。「まずは、自分たちに一番近い空間に宿っている悲しい事実とか、世の中のちょっとモヤモヤするなという部分を、僕はデザインの力で美しく透明にしたいと思ったんです」

「リサイクル」ではなく「アップサイクル」という視点

人間に最も身近な空間のデザインを突き詰め、学部生時代の多くの時間を費やしてたどり着いた「透明のワニ革」には、中村さんの作品作りのスタンスが凝縮されている。

そもそもなぜ「透明なワニ革」をつくろうと思ったのか。まずコンセプトの一つが「アップサイクル」という視点だ。「コンビニの袋ってすぐに捨てられますよね。これをどうしたら皆が捨てないで持つようになるかを考えたら、じゃあ捨てられないよう価値を上げればいいんじゃないかと。そのためには、価値を下げて再利用するダウンサイクルではなく、デザインの力で価値を上げることが大切で、どうやってポリ袋とラグジュアリーの象徴であるワニ革との間のギャップを埋められるかを考えていました」と語る。

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夢は「50歳で自分の博物館を持つこと」