日経ナショナル ジオグラフィック社

南極がいったん転換点を超えてしまえば、たとえ大気中の炭素レベルを下げられたとしても、暴走する氷の後退は止められないようだ。論文の著者らは、パリ協定の当初の誓約に加えて、今世紀後半以降、大気中の炭素除去技術を取り入れたとしても、そうした技術がこれから40年以内に大規模に導入されない限り、海面は今後数百年にわたって上昇するだろうとしている。その合計は、地球温暖化が2度以下に抑えられた場合よりも依然として高くなるだろう。大気中から炭素を取り除く技術は現在、開発のごく初期段階にある。

論文の共著者で、米ウィスコンシン大学マディソン校で海水準の研究をしているアンドレア・ダットン氏は言う。「この閾値(いきち)を超えてしまえば、後戻りはできません」

別の研究でも海面上昇は倍に

とはいえ、単一の研究では南極の未来を完璧に予測することはできない。同じ日に「ネイチャー」に発表されたまた別の論文では、数百件にのぼる氷河と氷床のモデリング研究を分析し、さまざまな炭素排出シナリオにおいて、地球上の陸地にあるすべての氷が海面上昇に及ぼす影響を予測している。そうした氷の中には、グリーンランドと南極の氷床、山岳氷河、世界の19地域の氷帽などが含まれる。

この研究もまた、パリ協定の目標値を達成した場合とそれを超えてしまった場合とでは、地球上の氷の行く末に明確な違いがあることを示している。平均気温が3度上昇したシナリオでは、今世紀末までに陸の氷が世界の海面を上昇させるレベルは、1.5度のシナリオの2倍に及ぶ。

ただし南極については、2つ目の研究は、検証したすべてのモデルにおいて、炭素の排出量と氷の減少の間に明確な関係を見いだしていない。その原因は、融解と降雪という相反するプロセスが、地球が温暖化していく中で、南極のバランスにどのような影響を与えるかが不確実であるためだと、著者らは述べている。

英キングス・カレッジ・ロンドンの気候科学者で、2つ目の研究の筆頭著者であるタズミン・エドワーズ氏は、これは南極が気候変動の影響を受けていないことを意味するものではないと述べている。「わたしたちの主張は、数多くの異なる気候モデルや氷床モデルにおいては、南極がどの程度気候変動に反応するかに非常に大きな差があるということです」

ダットン氏らによる新たな論文が示す南極の融解レベルは、エドワーズ氏の分析における平均的な予測値よりも高いものの、より悲観的なモデル群の「範囲内」であると、エドワーズ氏は述べている。そうしたモデルはどれも、海洋性氷床不安定プロセスを考慮しておらず、むしろ南極の棚氷の下部や上部での融解など、そのほかの理由による氷の消失が大きいと予測している。

最も正確なものがどのモデルであろうと、重要なのは南極の氷床には本質的な転換点があると理解することだと、ダットン氏は言う。

「そして、そのポイントに非常に近づいているというリアルな可能性があります。それが起こるのを防ぐために、わたしたちはあらゆる手を尽くさなければなりません」

(文 MADELEINE STONE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年5月13日付]