40年内に後戻りできない臨界点に 南極の氷どう守る

ナショナルジオグラフィック日本版

パインアイランド氷河から氷の塊がまた一つ、南極の海へと流れ出してゆく。主要国が早急にさらなる排出量の削減に取り組まなければ、南極大陸の氷は今世紀半ばまでに融解の転換点を迎えて、危険な海面上昇を引き起こす可能性があることが、新たな研究によりわかった(PHOTOGRAPH COURTESY NASA EARTH OBSERVATORY)

世界の主要国が二酸化炭素(CO2)の排出をより積極的に削減しなければ、南極の氷の融解は今世紀半ばに劇的に加速し、今後数百年にわたって「急速で止められない」海面上昇を引き起こす。そんな可能性を示した論文が、学術誌「ネイチャー」に2021年5月5日付で発表された。

パリ協定のもと、これまでに200カ国近くが「国が決定する貢献」と呼ばれる排出削減目標を提出している。しかし、同協定が地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べてセ氏2度未満に抑えることを目指しているにもかかわらず、各国から当初提出された目標では、今世紀中に気温は少なくとも3度上昇すると予想されている。21年4月、ジョー・バイデン米大統領ほか数カ国の指導者たちは、パリ協定の目標値により近い結果を出すために、それぞれの国の排出削減目標を引き上げた。

今回の論文は、気温の上昇幅ごとに、地球最大の氷床にどの程度の違いがもたらされるかを示している。人類が地球の気温上昇を2度に抑えることに成功した場合、南極大陸の氷の減少は21世紀を通じて安定したペースで続くと同研究は結論づけている。

一方、もし世界が炭素の削減ペースをこのまま変えずに気温上昇が2度を超えれば、南極では60年ごろから氷の融解が急激に進むようになり、2100年までの海面上昇が2倍近くになる可能性がある。その原因は、今後数十年の間に起こると見られる「暴走するプロセス」だ。なかでも、すでに危うい状態にある西南極氷床が危険視されている。

「もしこのままアクセルを踏み続ければ、西南極氷床は消滅の道をたどることになるでしょう」と、米コロラド大学ボルダー校の雪氷学者テッド・スカンボス氏は言う。

悪循環を引き起こす「不安定」という現象

1990年代初頭以降、南極はおよそ3兆トンの氷を失ってきた。現在、氷の減少は加速している。西南極氷床の流出を押しとどめている棚氷(氷床末端の海に浮いた部分)を温かい海水が解かして不安定にし、氷床の一部である氷河がより速いスピードで海に流れ込むようになっているためだ。

地球温暖化を最小限に抑えることが、将来的な南極の氷喪失と海面上昇を抑える最善の方法であることは明らかだ。とはいえ、温暖化の程度によって、どの程度の氷が、どの程度の速さで消失するかについてはまだよくわかっていない。

これが明確に推測できない原因の一つは、今後起こり得るプロセスによっては、棚氷の消滅に従って、氷床や氷河の融解が暴走する可能性があるからだ。

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3度上昇と2度上昇でどれだけ違うのか
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