2021/5/27

安藤先生 南さんが言うように、インターンで目をかけられて実質的に採用が決まるケースもあると思いますが、企業はどうしてそのような行動を取るのでしょうか?

蒼太 え、そりゃあ、デキる奴に入社してもらいたいからですよね。

安藤先生 そうですね。一緒に働きたいと思える優秀な人材を採用したいわけです。

ところで先ほど、3年生のみんなも「なんだか不安だな」って顔をしていると、言っていましたね。しかし、ここで南さんが理解しておく必要があるのは、企業や採用担当者の側も、正社員を採用する際にはとても不安を感じているということです。

蒼太 企業も不安? なんでですか?

安藤先生 企業がひとりの正社員を雇用する際には、とてもお金がかかります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査から労働政策研究・研修機構が算出した数値を見ると、大卒・大学院卒の労働者が60歳までに得る生涯賃金の平均は、男性で2億7210万円、女性は2億1570万円です。これは平均的な転職を経験しているケースで、退職金や61歳以降の賃金は含まれません。

また、企業が人を雇う際に負担する費用は、労働者に対して直接支払う賃金だけではありません。社会保険料の企業負担やオフィススペースの確保、その他福利厚生など様々な面でお金がかかります。乱暴な計算ですが、例えば賃金の1.5倍と考えると、男性では4億円を超える金額になります。

南さんの友達を1人思い浮かべてみてください。もし採用する立場だったとして、その人に4億円を払えますか?

蒼太 うーん、それは無理かも……。

安藤先生 もちろん採用した時点で全額払うわけではありませんし、雇った労働者は働いて価値を生み出してくれます。しかし正社員として一度採用すると、長期的な関係になります。できるだけ長い期間、働いてほしいと多くの企業は考えますし、法的にも一度雇用するとなかなか関係を解消するのが難しいという側面もあります。そう考えると、会社に貢献してくれる可能性が高い人を厳選して採用しなければなりません。

企業がインターンを受け入れる理由

蒼太 でも、企業側も不安という話とインターンはどうつながるんですか?

安藤先生 まず通常の採用活動では、エントリーシート(ES)と筆記試験、また数回にわたる面接試験などで内定者を決定します。その際に会社側はできるだけの努力はするのですが、実質的に個々の学生を評価するために使える時間は短いですよね。

これに対してインターンの場合は、参加した学生がその企業を受けない可能性もありますし、企業側も会社を知ってもらうという側面が強いわけですが、実際に一緒に働いてみて、その学生がどんな人なのかを知ることができます。採用する学生の能力や会社との相性といった不安要素を解消するために、インターン学生の受け入れという費用をかけているわけですね。

また良い人を採りたいと考えている企業にとって、優秀な学生は他の会社でも高く評価されるはずなので、早めにアプローチしたいと考えます。これも学生を他社に奪われてしまうという不安を解消するための取り組みだといえます。

インターンを受け入れる理由には、学生の教育を通じた社会貢献なども当然ありますが、利益をあげることが求められている民間企業に限れば、やはり採用面でのメリットの存在が最も重要な理由だといえるでしょう。

蒼太 企業側も不安で、その不安を解消したがっているということか、なるほど。そういう風に考えたことはなかったです。(じゃあ結局、インターンはどうしたらいいんだろう…?)

安藤先生 それでは、南さんの最初の質問に戻って、考えてみましょうか。

蒼太 「インターンは必要か?」ですね!

(次回へ続く)

安藤至大
 日本大学経済学部教授。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授、日本大学大学院総合科学研究科准教授などを経て、18年より現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員などを務める。著書に「これだけは知っておきたい 働き方の教科書」(ちくま新書)など。
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