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酸素が足りない インドのコロナ死者急増が語る盲点

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

酸素投与は救命に欠かせない治療法のひとつだ。この数週間、インドで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死者数が急増し、その大切さが改めて浮き彫りになった。インドでは、酸素を運ぶ急行列車が東部のアンガルからデリーなどに急ぐ一方、あえぎながら死んでいく家族を見守るしかない人々の悲痛な叫びが、ソーシャルメディアにあふれている。

新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって、ブラジル、ペルー、ナイジェリア、ヨルダン、イタリアその他の国々でも、病院が医療用酸素の不足に直面した。米国も例外ではない。ニューヨーク市やカリフォルニア州では、一時、危機的な状況にまで酸素供給量が減少した。インドの危機とあいまって、現在、酸素不足が世界の注目を集めている。

だが、こうした酸素不足はいまに始まったことではない。専門家は、低中所得国では毎年、救えるはずの多くの命が酸素不足によって失われており、パンデミックがその格差を深刻化させていると指摘している。

「酸素に関するシステムが長年にわたって非常に脆弱であったことを、新型コロナは露呈させました」と、低中所得国の医療に携わる国際的な保健機関、クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアチブ(CHAI)のムフ・ラマトラペン氏は言う。「私が最も懸念していたのは、新型コロナのような事態が起きることでした」

命を救うために最も不可欠な要素の一つである酸素。なぜ、それを手に入れるのがこれほど難題なのだろうか。

酸素はどれほど重要か

地球の大気の大半は窒素が占めており、酸素は21%しか含まれていない。だが、世界保健機関(WHO)が国連児童基金(ユニセフ)と共同で作成した設備が行き届かない場所における酸素療法のガイドラインによれば、医療用酸素には82%以上の酸素濃度が求められている。第1次世界大戦当時、ヨーロッパ各地の前線でマスタードガスの被害を受けた兵士たちの治療に使用されたのが、現代の治療薬としての酸素の始まりだった。

酸素療法は、新型コロナ感染症や、低所得国の子どもの主な死因である肺炎など、呼吸器疾患には特に欠かせない治療法だ。血液中の酸素濃度が下がる低酸素血症は、肺炎がもたらす致命的な合併症のひとつで、臓器が機能を停止し始めてしまう。

「細胞を維持するためには酸素が欠かせません」。カナダ、アルバータ大学の小児科学助教、マイケル・ホークス氏はこう話す。ホークス氏は、ウガンダを中心とした太陽光発電式酸素供給プログラムを監督している。「私たちの体に血が流れているのは、酸素を細胞に供給するためなのですから」

その他にもさまざまな場面で酸素は救命に役立っている。低酸素血症は、重症のマラリアや心血管疾患から、患者が大量の血液を失う外傷にいたるまで、あらゆる病気の合併症として起こる可能性がある。医師が問題の原因を治療する間、酸素補給を行うことで時間を稼ぐことができる。また、手術で患者に麻酔をかける際も酸素が投与される。

「酸素は、医学界のあらゆる場面で使用されています」と、ラマトラペン氏は言う。

これほど重要な酸素だが、しかし、低中所得国の患者にとっては、必ずしも簡単に利用できるものではない。

 2014年に発表されたマラウイの病院を対象にした調査によれば、必要とする患者の22%しか酸素を利用できなかった。19年に発表されたナイジェリア南西部の病院を対象とした調査では、酸素を必要とする子どもの20%にしか投与できなかった。また、20年にオーストラリア、メルボルン大学の小児科医で、パプアニューギニア大学の小児科学非常勤教授であるトレバー・デューク氏らが学術誌「Archives of Disease in Childhood」に発表した研究では、パプアニューギニアの医療施設で酸素プログラムを改善した結果、子どもの死者数が40%、肺炎による死者数が50%それぞれ減少したことがわかった。

このように医療用酸素が人命を救うという明らかな証拠があるにもかかわらず、実際に医療機関が酸素を入手しようとすると、酸素を供給する方法をはじめ、多くの複雑な課題に直面する。

地域の事情に合った供給システムが必要

酸素の供給システムは、医療機関の規模、都市部か農村部かという環境の違い、コミュニティの所得水準などによって異なっている。

世界各国の大規模な医療機関では、酸素貯留タンクを使用している。このシステムでは、病院の敷地内に液体酸素用の巨大なタンクが設置されており、酸素は配管を通して病院内に送られ、水道の蛇口のように酸素を止めたり流したりすることができる。

だが、小規模な医療機関にとって、このシステムは法外なコストが必要だ。タンクの酸素を補充するには、独占状態にありがちなガス会社を利用しなければならない。また、配管設備の建設に巨額の投資が必要となるが、デューク氏は、低所得地域では「配管設備は必ず漏れる」と言う。

こうした事情から、農村部や低所得地域では、ガス会社が酸素プラントで充てんする酸素ボンベで、医療用酸素の供給を受けている。だが、高圧ボンベは重くて危険なため、特に酸素プラントから数百キロ離れたへき地の村では高額の運搬費用がかかってしまう。ボンベの数も常に不足している。通常、ボンベの酸素は大人ひとりが1~3日使用できるだけの量しかないので、医療機関は多くの在庫を用意しておく必要がある。

一方、1970年代から出回っている酸素濃縮器は、ゼオライト系の鉱物に空気の窒素を吸着させて酸素を濃縮することができる。患者は、チューブを通して鼻から酸素を吸入する。1台の酸素濃縮器で、同時に2人の子どもに酸素を供給できるが、安定した電力供給が欠かせず、それがいつも保証されているわけではない。

「停電は命取りになります」とホークス氏は言う。「もし2、3分間でも停電すれば、子どもは死んでしまいます」

そこで、酸素格差を埋めようと取り組む人々の多くが、太陽光発電式濃縮器に注目してきた。この濃縮器の場合、酸素濃縮の仕組みは同じだが、通常の電力ではなくソーラーパネルと電池で作動する。酸素発生器の利用も増えている。これは、一般に酸素濃縮器を大型化したもので、中規模の地域病院が、地域内の小規模施設のそれぞれに酸素ボンベを充てんして供給できる。

さらに所得レベルの低いコミュニティ向けには、太陽光発電式濃縮器と酸素発生器の併用が最適だとデューク氏は言う。だが、デューク氏がパプアニューギニアの農村部の病院で行った20年の研究結果から、酸素プログラムを成功させるには、別の側面の投資も必要であることが明らかになっている。

酸素があるだけでは不十分

酸素を患者に確実に提供するには、医療機関が酸素を手に入れるだけでは不十分だ。現場では、酸素濃縮器の使用と管理の専門知識を持つスタッフが欠かせない。ホークス氏によれば、こうしたスタッフがいなければ、酸素濃縮器は半年から1年で使用できなくなることがあるという。また、酸素ボンベの在庫を確保し、ボンベを再発注するタイミングをスタッフが把握するためには、しっかりとした供給管理システムの整備も重要になる。

スタッフが低酸素血症を診断できる能力も必要だ。低酸素血症は、息切れするほど患者の状態が悪化するまで症状がわかりにくいので、初期段階では発見が難しいとされている。

そこで、パルスオキシメーターの出番となる。1970年代に発明されたこの小型の電子機器は、患者の指に固定して血中酸素飽和度を測定するもので、米国の病院では1980年代末に標準的に使われるようになった。

「医療の窓口にパルスオキシメーターがあることが重要です」とラマトラペン氏は言う。

だが、ラマトラペン氏の話では、CHAIが活動する国々の医療機関の9割では、パルスオキシメーターが導入されていない。多くの場合、この機器が血圧計や体温計ほど重要視されていないという単純な理由からだ。

これは、死因を報告する方法にも原因があるという。登山家などの数少ないケースを除けば、死因として低酸素血症が報告されることはめったになく、死亡診断書には、肺炎、マラリア、心血管疾患などの病気そのものが記載されることが多い。そのため、低酸素血症で多くの命が失われていることを医療従事者でさえ認識していないことがあると、ラマトラペン氏は話す。

「毎年、酸素不足のために、大人や子どもが亡くなっています。今こそ酸素に注目すべきです」

重要なのに軽視されている酸素

酸素格差を解消するには、国際社会から多大な投資が必要だ。だが、デューク氏によれば、国際社会では新たな薬剤やワクチンが優先される傾向があり、いままで酸素に関する資金調達の動きは鈍かったという。

「酸素は重要な医薬品ですが、軽視されてきました」とデューク氏は言う。「不可欠ですが、昔からある医薬品です。だから、一般に酸素の優先順位は低かったのです」

しかし、新型コロナのパンデミックによって、医療用酸素がどれほど命を救えるかが浮き彫りになっている現在、従来の優先順位が変化する兆しも生まれている。

昨秋、NGOが連携して、「COVID-19酸素需要トラッカー」を立ち上げた。この追跡調査では、低中所得国で不足している日々の酸素量を資金提供団体がリアルタイムで確認できる。その衝撃的な結果を受けて、2月にはWHOが「COVID-19酸素緊急タスクフォース」を発足させ、低中所得国の酸素不足への緊急資金援助として9000万ドル(約98億円)の確保を、さらに来年のために16億ドル(約1750億円)の資金援助を目標に掲げた。

このタスクフォースを率いる国際保健機関、ユニットエイドのプログラム・ディレクターであるロバート・マティル氏は、資金提供団体の間で酸素需要に対する認識の浸透が遅いことを認めている。

「インドの危機が起きる前に警鐘を鳴らしたはずだったのですが」とマティル氏は言う。「こんな事態に至る前に、各国政府は酸素不足がどれほど深刻な問題なのかを認識すべきでした」

デューク氏は、インドよりも脆弱で新型コロナの急拡大に見舞われる恐れがある国を救うには対処が遅すぎることを懸念している。だが一方で、パンデミックにより、最新の技術だけでなく優れた酸素供給システムにも投資する重要性が新たに認識されることを期待している。

「数年前に手を打っておけば良かったのです。でも、まだ間に合います」

(文 AMY MCKEEVER、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年5月8日付の記事を再構成]

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