在宅勤務、集中できる机周り 書類や付箋は視界の外に
読者の皆様は、自宅での作業に集中できているだろうか。「仕事は家の外でやる派」という方も、テレワーク実施企業の増えている昨今、自宅においてもオフィスと変わらず集中できるに越したことはないだろう。
「自宅は誘惑が多く、だらけてしまう」「人目がないと集中できない」。筆者の周囲で自宅作業を苦手とする方は、こういった精神的理由を口にする。しかし実際に彼らの自宅を訪問すると、単にデスク周りが散らかっているだけだったりする。
プリンストン大学の研究によると、視覚に体系化されていない刺激が加わるほど、脳の集中力は低下するそうだ。視界に作業内容と関係のないものが入り込むだけで、無意識のうちに注意力が削がれてしまう。ぜひ一度、自宅のデスク周りを写真撮影してみてほしい。読みかけの本、未処理の書類、食べかけの菓子…。「見ているだけで忙しい」状態になっていないだろうか。
精神力を鍛えるより、片づけによって、雑多なものを排除する方がずっと手軽だ。30分間の片づけで、自宅作業に驚くほど集中できる。誘惑も、積み残しの罪悪感も、まずは視界から物理的に消してしまえば、一気に心晴れやかになるはずだ。
やるべきことを忘れぬよう、あえて書類や付箋を出しっぱなしにしている方もいると思うが、その管理方法は効率的でない。別の作業をしている途中でも、無意識のうちに、やり残しのタスクを思い出してしまうからだ。To DoリストはPCやスマートフォンに集約させ、書類や付箋は視界から消そう。カレンダーのリマインド機能をセットして、処理すべき時に必要なものだけを取り出せば、目の前の仕事にだけ集中する癖づけができる。
デスクの上を、デフォルトでゼロにする
ご自身のデスク上に、「今日使う予定のないもの」は何個あるだろうか。いくつもあるという方は、デスクが非効率な状態にある。一度全てのものを出して、点検を行おう。
前提として、デスクは作業場であって、物置場ではない。辞書や書類ケース・ペン立ては、たとえ毎日使うものであっても、デスク上を定位置とするのは、やめよう。一般的に、オフィスと比べて、自宅のデスクはサイズが小さい。今使うもの以外を置いている余裕はないのだ。
デスク上をゼロにする代わりに、デスク周辺にカラーボックスやキャビネットを置いて、毎日使うものの定位置を周辺に定めよう。作業の始めに「今から使うもの」だけを出して、作業終わりに元に戻す。儀式のように、一日の始めと終わりにデスク上をゼロの状態に戻せば、メリハリをつけて目の前の作業に集中できるはずだ。
デスク周りの週間在庫回転率を「1以上」に
デスク周辺のスペースに余裕がなければ、デスクの上をゼロに保つのは不可能だ。週に1回以上使うものは、デスク周りに設置しよう。筆者は机の横に三段のカラーボックスを置いて、毎日使う文房具やガジェット、コップや菓子の定位置としている。腕を少し伸ばすだけで手が届くので、取り出しやすく戻しやすい。
流通業などで用いられる「在庫回転率」は、「対象期間中に、在庫商品が何回転したか」を示す指標だが、これはデスク周りの整理にも応用できる。デスク周囲1メートル以内は、貴重なゴールデンゾーンだ。滅多に使わない文房具や読まない本が存在するだけで、必要なものの出し入れが途端に億劫になってしまう。作業に使わないものは一切置かず、週間の在庫回転率1以上を目指そう。
週1回以上使うものを見極める簡単な方法がある。デスク周辺にあるものを、一度、箱に移して仮置きしよう。その後1週間、箱から必要なものだけ取り出し、使用後に、デスク周りに定位置を定めていく。1週間経っても使用しなかったものだけが、箱の中に残る形になる。箱はそのまま押し入れへ。デスク周りに置き続ける必要はない。
季節ごとに衣替えをするように、デスク周りもまた、定期的な見直しが必要だ。「今週作業で使うもの」は、作業内容によって流動的に変化する。「最近デスクが散らかってきたな…」と感じたら、見直しのサイン。全部出す→週1回以上使わないものは押し入れへ格下げを繰り返して、常に一軍の作業用具だけに囲まれたデスク環境を作ろう。
定位置の決め方にもコツがある。使用頻度の高いものほど、出し入れをする際に必要となるアクション数を減らすことが重要だ。例えば毎日使う書類を取り出すのに、「しゃがむ→引き出しをあける→ファイルを取り出す→対象となるページをめくる→書類を取り出す→机の上に載せる」と6アクションも必要となれば、出すのも戻すのも面倒になり、いつの間にかデスク上に出しっ放し状態となるだろう。毎日使うものは基本、2アクション以内で取り出せるようにしたい。自分の腕を水平に伸ばして手がとどくエリアに、毎日使うペンや書類を、カゴや蓋のないケースに入れてざっくりと出し入れしよう。反対に月1回も使わないものは、アクション数が多くても問題ない。書類であれば、細かくファイリングして箱につめ、押し入れの奥に入れておこう。
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デスク上 仕事別に味付け
デスク上はゼロとし、デスク周りは週一回以上使うものだけにする。この基本形が完成したら、そこから自分なりの味付けをしていこう。例えば筆者は、財務関連の仕事をする時はデスク上を極限までゼロの状態にするが、コラム原稿を書くときは、インテリア雑誌や植物など敢えて置いて発想力を刺激している。カフェの雑音を流して飲み物と菓子を並べるもよし、付箋を机いっぱいに貼ってブレストするもよし。作業終了時にまたゼロに戻せれば、その日の気分で自由自在に散らかしてOKだ。さあ、今週末30分間でデスクを片づけて、作業ごとに最高のパフォーマンスを出せる環境を作っていこう。
(整理収納アドバイザー 米田 まりな)
[NIKKEIプラス1 2021年5月15日付]
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