Men's Fashion

チャールズ英皇太子の装い 服は保守的・サステナブル

ダンディズム おくのほそ道

服飾評論家 出石尚三

2021.5.25

19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。




4月、英国のエリザベス女王の夫であるフィリップ殿下が死去されました。殿下のひつぎの後ろを歩くチャールズ皇太子を見て、いつどんな時も、彼のスタイルは揺るぎない、と感じ入りました。72歳にして、あのしゃんとした姿勢から伝わる若々しさは見習いたいものです。

服は擦り切れるまで大切に

チャールズ皇太子の食事はまことに健康的であります。自然農法による食材を基にしているからです。それらの食材は一般に「ハイグローブ産」と呼ばれています。

ハイグローブはイギリス南西部、グロスターシャー州にあります。チャールズ皇太子がここにお持ちになっている広大な土地では、昔ながらの自然農法が行われているのです。野菜や果物。鶏に牛。牛からはベーコンやハム、乳製品がつくられます。

チャールズ皇太子がこの土地を購入したのは1980年。この時すでに皇太子の頭の中には自然農法のアイデアがあったようです。ぜいたくな美食を極めるのではなく、有機農法に積極的に取り組む姿勢は、彼の質素な日々の暮らしを想起させます。

装いも同様です。チャールズ皇太子は擦り切れるまで何十年も大事に服を着ることで知られています。ジャケットが擦り切れてきたらパッチをあてる、修理をする。これが当たり前のことなのです。30年後にも着られるよう、洋服のスタイルも保守的なのであります。

英国では親の服を息子が着ることは珍しくありません。実際、チャールズ皇太子の上着をウィリアム王子が着ることだってあるのです。しかし、ウィリアム王子はチャールズ皇太子よりも手が長い。こんな時、どうするのか。

歓迎式典で中曽根首相(当時)と並ぶチャールズ皇太子(1986年、迎賓館)

チャールズ皇太子のラウンジ・スーツを縫っているのは、ロンドンの伝統的テーラー「アンダーソン&シェパード」。英国ではこうした高級紳士服店で仕立てる服は、簡単に袖丈の調整ができるようになっています。その工夫のひとつが袖口の「本開き」と「開き見せ」の併用です。本開きとは袖口のボタンが、ボタンホールによって開閉できる仕様のことをいいます。一方、開き見せはホールに似せたステッチの上に、飾りとしてボタンを縫い付けただけになっています。