学びながら芸能界デビューも 大手事務所が高卒資格校
この4月、吉本興業やワタナベエンターテインメントが運営する通信制サポート校が相次いで開校した。エンターテインメント業界で必要なスキルを学びながら高校卒業資格を得られるのが特徴。学校で学んで同業界に入る道が開かれるとして注目が集まっている。
吉本興業が始めたのは「吉本興業高等学院」。お笑い芸人の他、ダンサーや俳優といったパフォーマーや、脚本家やタレントマネジャー、プロデューサー、デジタルクリエーターといった幅広い職種についてプログラムを用意した。
東京・神保町と、大阪・難波にある教室の対面レッスンに加え、オンライン授業も用意する。一般科目に関しては、岡山県美作市に本拠を置く滋慶学園高等学校と提携。通信課程を履修することで高校卒業資格を得られる。
吉本興業は1982年開校のNSC(吉本総合芸能学院)に加え、18年には沖縄ラフ&ピース専門学校も開校するなど芸能人育成教育に力を入れてきた。これまでは18歳以上が対象。今回は初めて高等学校教育に進出し、15~17歳までの生徒を受け入れる。
約6000人もの所属タレントを抱えるノウハウを生かし、業界で活躍できる人材を育成することが目的だ。
高校教育で先行するのがワタナベエンターテインメントだ。すでに対面レッスンと通信制高校を組み合わせた「渡辺高等学院」を開校。現在は東京のほか、大阪、名古屋にも展開している。
そんな同社が4月に新たに開校したのが、完全オンラインの「ワタナベNオンラインハイスクール」だ。角川ドワンゴ学園が手掛ける通信制高校「N高等学校(N高)」と提携し、エンターテインメントのスキルを学びながら高校卒業資格を取得できる。責任者の坂本拓也氏は「地域格差なくエンターテインメント教育を提供するため」と完全オンライン化を説明する。
16年開校のN高は、VR(バーチャルリアリティー)入学式や、実際にお金を投資して社会の仕組みを学ぶN高投資部など、ユニークなプログラムで高校教育の新たな選択肢を示してきた。
ワタナベエンターテインメントはその革新性に注目し、N高と提携。「エンタメに興味はあるけど、そのために上京まではできない」という人も取り込み、裾野を広げようと考えている。
タレント志望者以外も
芸能事務所が相次いで高校に進出した背景には、生徒の進路の多様化がある。
「いまや通信制高校は全日制高校に順応できない人の選択肢ではない」と坂本氏は指摘する。ネットを通じて豊富な社会についての情報を得られるようになり、「若い時点から自分の好きなスタイルで学びたいと思う人が増えている」(坂本氏)。
吉本興業でアカデミー事業を担当する坂内光夫氏も「若いうちからSNSで情報発信できる環境が整い、自立年齢が下がっている」と話す。とはいえ、両校が想定するのは目的意識がはっきりした生徒ばかりではない。漠然と「何かやってみたい」と考える生徒も募集対象だ。
ワタナベNオンラインハイスクールは「魅力発見プログラム」というカリキュラムを用意した。著名演出家の金谷かほり氏が監修するこのカリキュラムでは、生徒が自分の魅力を知り、どう表現するかを学ぶ。演出家に監修を依頼したのは、出演者の魅力を見極め、引き出すことにたけているからだ。自分の長所を効果的に表現するスキルはどんな進路でも武器になる。
吉本興業高等学院も、コミュニケーション能力に重点を置く。「クリエーティブな発信のベースにはコミュニケーション能力がある。そこをしっかり身につけてもらう」と坂内氏。「芸人」、「パフォーマー」に加え、インフルエンサーやプロデューサーについて学ぶ「デジタル」、映像ディレクターや脚本家、マネジャーなどの「クリエイティブ」と、幅広いカリキュラムを用意し、裏方としてエンターテインメントを支える人材の育成も目指す。
業界の間口も広がっている。「かつて芸能界は、スカウトかオーディションしか入り口がなかった。今は学んで(芸能界に)入る道が開かれている」(坂本氏)
芸能人やインフルエンサーも、今後は「学んで目指す職業」になるのかもしれない。
(ライター 出雲井亨)
[日経エンタテインメント! 2021年5月号より再構成]
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