剛力彩芽さん 世界を変える女性映画人の作品に注目
「女性視点の作品はまだまだ増えていくと思う」。女優の剛力彩芽さんが、映画の世界で存在感が高まっている女性の監督・プロデューサーの活躍に注目している。国際短編映画祭でオンライン配信が始まった国内外の女性監督作品に触れ、社会課題や女性が抱える悩みを映す映画には、ジェンダー平等など世界を変える力があると強調する。自らも短編映画制作に企画から携わるようになり、多様な作り手の一人として「新たな価値観を発信したい」と意欲を示す。
「女性はまだまだ伝えたいことがある」
今年で93回目を迎えた米アカデミー賞の作品賞は、女性監督としては史上2人目となるクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が受賞した。典型的な男性社会だった映画の世界は、女性映画人の活躍や近年の「#MeToo運動」などもあり、ジェンダーギャップを正す動きが一段と強まっている。剛力さんは「女性視点の作品が増え、社会もそれを受け止めるようになってきた。それでも、まだまだ女性が伝えたいことは多い。いままで苦しんできたこと、我慢してきた思いを伝える動きはもっと増えてくる」と見ている。
6月11日に東京で開幕する米アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)2021」は女性映画人を応援する「Ladies for Cinema Project」(https://shortshorts.org/2021/ja/ladies/)として、国内外の女性監督の5作品をオンラインで先行配信(鑑賞無料・要登録)している。作品を見た剛力さんは「女性はこうあるべき、男性はこうあるべきだというジェンダーバイアスが世界各地で徐々に薄まってきているのを感じる。女性から見た世界を伝える作品が増えてくれば、私たち一人ひとりの視野や思いも広がってくる」と映画の力を感じたという。
先行配信中の短編映画『起業家リトゥ』はインドの女性起業家を描いた15分50秒のドキュメンタリー。女性に対する偏見を乗り越えてビジネスを立ち上げた主人公リトゥの思いとともに、祖母・母・娘の3代にわたるインドの女性を取り巻く環境の時代変化を描き出している。「女性の自立を体現したリトゥの姿がかっこいい。母校に招かれて生徒たちを前に語った言葉に勇気づけられた」と、剛力さんは主人公の言葉をノートに記した。
ほかにも、1955年のフランスを舞台に、10人の女性が当時の妊娠・出産をめぐる悩みを産婦人科医に吐露するモノクロの短編『幸せな母親』(11分26秒)や、映画監督を目指す女性がセクハラを受ける『SHIBUYA,TOKYO 16:30』(14分59秒)など、配信中の5作品はどれも女性ならではの悩みや葛藤といったメッセージが込められている。剛力さんは「表現や思いを伝えるのに男女は関係ないが、女性監督の作品には女性が内面に秘めている強さを感じる」と話す。
短編映画がSDGs実現に貢献する
剛力さんが映画の仕事に本格的に関わり始めてまだ1年余り。「映画業界のことはまだまだ知らないことばかりで、楽しみながら勉強している」という。多くの作品を見るようになった短編映画については「作品のエンドロールが流れても、自分の中ではそこで終わらない作品ばかり。短い時間だからこそ、鑑賞後に色々と考えさせられるのが大きな魅力」と語る。
SSFF & ASIAの中では自らも短編映画3作品で主演を務めた。与えられた役を演じるだけでなく、企画段階から制作に携わったことで、これまでとは違った「一緒に映画をつくり上げる」醍醐味を感じている。3作品のうち『卵と彩子』は女性監督の大森歩氏の作品。女子高生から大人の女性になり、そして母親になっていく姿と心の変化を描いている。恋人だった男性に「私、進化しているよ」という主人公のセリフなど「女性だからこそ共感できるシーンが多くある」とかみしめる。
剛力さんはいま国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしたラジオ番組にも出演している。世界の短編映画にはジェンダー平等などSDGsにつながるテーマの作品も多い。「まだ私の中では映画とSDGsをリンクできていないが、これからエンターテイナーの一人としてSDGsの実現へ結び付けられるようになりたい」との思いも芽生えてきた。
自身が監督やプロデューサーならどんな作品をつくりたいか――。この問いに剛力さんは「新型コロナウイルス禍のいまは笑顔を届けたい。みんなの心が優しくなれる作品をつくりたい」と目を輝かせて答えた。映画が持つ力を確信した表情だった。
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