――2つ目の条件は何ですか。

「『共感能力』です。企業には投資家、顧客、従業員などさまざまなステークホルダー(利害関係者)がいます。当社のようなグローバル企業であれば、それは国内外を問いません。その全員を満足させることは難しいかもしれませんが、リーダーには少なくとも一人一人の事情や気持ちに思いを致し、理解しようとする共感能力が求められると思います。日本では『米国人はビジネスライク』などとよく言われますが、私の経験上、決してそんなことはありません。彼らは確かに合理的ではありますが、その裏に非常に豊かな感情を秘めている。海外の人に対しても、きちんとそこをケアしていく必要があります」

トップの後ろには誰もいない

「経営トップに上り詰める人はたいてい高い知性や実行能力を持っているというのは、すでにその地位にたどり着くまでのプロセスで証明されているでしょう。しかし、勇気と共感能力は別です。トップとその手前のポジションの決定的な違いは、振り返っても誰も後ろに控えていない点。最終的な責任を取るのは自分しかいないという重みです。それはその立場にならないと分からないし、なって初めて問われるのが本当の勇気と共感能力だと思います」

東大在学中は落語研究会に所属し、高座名「美々庵利伊(ビビアン・リー)」を名乗った。「今の若い人はピンとこないでしょうが、『風と共に去りぬ』などで知られる往年の大女優。当時はこの名前だけでかなりウケました」。今も寄席通いは欠かさない。「日々笑うことが一番の気分転換。部下と仲良くなるにも、くだらない話でゲラゲラ笑うのが一番です」(写真は大学の卒業生が集まった約10年前のイベント)

――「日本近代医学の父」と呼ばれる北里柴三郎博士をはじめとする医師たちが創設発起人となってテルモが誕生してから今年で100年です。

「当社は1921年、安全で良質な国産の体温計を作る工場としてスタートしました。その前年までスペイン風邪が猛威を振るっていたので、きっと正確に体温を測りたいと言うニーズが高まっていたのでしょう。それから100年の時を経て、人類は新型コロナという新たな危機に直面しています。我々が提供するものは今や高度な医療機器に変わりましたが、自分たちの存在する意味をコロナ禍で改めてかみしめることになりました」

「コロナ重症患者の治療に使う体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)もそうですが、それがいま役に立っているのは20年以上前から先を見据えて開発を進めていたからです。我々が将来も世の中に必要とされる会社であるために、日ごろから社員一人一人が勇気を持って挑戦していくことが大事だと思っています」

(聞き手はライター 石臥薫子)

佐藤慎次郎
1960年東京都生まれ。東京大学卒業後、東亜燃料工業(現ENEOSホールディングス)入社。99年朝日アーサーアンダーセン(現PwCジャパングループ)に転じ、2004年テルモ入社。17年から現職。

(上)前職での挫折 北城氏の心構え「ATM」に気づく

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