未利用魚を調理してみた 捨てるのもったいないうまさ
数が少ない、調理しにくいなどの理由で捨てられていた未利用魚を食べる人が増えている。雑魚を生かせば海洋資源も無駄にしないで済むというが、おいしいのか。調理し食べてみた。
未利用魚の詰め合わせを扱う通販もある
まず手軽なものを試した。福岡市のベンナーズが未利用魚を積極的に使い、下ごしらえした商品を通販で届けるサービスを2020年から始めた。「フィシュル」というサイトでお任せ便6パックを注文した。東京の場合、送料込みで5630円。毎月の定期便にすれば送料が半額になる。
1週間後に届いた商品は、6パックに加えブリのカマのおまけも付いていた。マリネやしょうゆ漬けに加工されていて、火を通すかそのままでも食べられる。ブリやサバもあったが、未利用魚とされる聞いたこともない「イラの和風カルパッチョ」と「マトウダイのハーブオイルマリネ」を食べてみた。好みの味付けができるよう薄味にしてある。
イラはかみ応えのあるしっかりとした身で、少ししょうゆを垂らすと一気に和風の味わいになった。マトウダイは身が柔らかくオリーブオイルとの相性がいい。こちらは少し塩をふってみた。パンとワインが進みそうだ。後で調べると高級フレンチの素材にも使われるようだ。それぞれ2人前ほどの量はある。
ひげがあることから「オジサン」と名付けられたタイのような魚は加熱用。タイより脂が乗っていて、高級魚ノドグロのような味わいだ。塩焼きでもうまいだろう。ハーブオイルの薄い味付けだが、日本酒にもよく合う。これが捨てられることもあるかと思うと、いかにももったいない。いずれも九州北西部の玄界灘で捕れた新鮮な魚だ。
クセのある魚は揚げるといい
同社の井口剛志社長に聞くと「サイズがバラバラだったり、骨の入り方が特殊でさばきにくかったりすると、おいしくても売れない。下ごしらえをして未利用魚の魅力を食卓に直接届けたい」という。
未利用魚の調理法をプロに聞いた。ミシュラン一つ星のフレンチ「シンシア」(東京・渋谷)のオーナーシェフ、石井真介さんが20年9月に開いた「シンシアブルー」(同)を訪ねた。未利用魚のほか、国際機関の海洋管理協議会(MSC)や水産養殖管理協議会(ASC)から持続可能な手法で生産されたと認定された魚介類を使っている。
食べたのはメジナのカルパッチョとミシマオコゼの湯引き。ともに素早く血を抜き鮮度を保つ神経締めで処理されており、繊細な味わいだ。シェフの吉原誠人さんは「足が早い青魚のように臭いにクセがある魚は皮目をしっかりあぶるとおいしく食べられる」。石井シェフは「クセのある魚は揚げるといい。骨張った魚は丸ごと煮ると骨離れがよくなる」と教えてくれた。
小骨が多い場合は煮付けに
生魚に挑戦してみよう。農家や漁師と食卓をつなぐ産直サイト「ポケットマルシェ」(岩手県花巻市)で、未利用魚を扱う秋田県の漁師、佐々木一成さんが捕った鮮魚1キログラムを注文した。送料込みで3884円。生け締めされたカナガシラ3匹にウマヅラハギ1匹、アジ4匹が入っていた。いかにも扱いにくそうなカナガシラをさばいてみた。佐々木さんからは「刺し身にすると食感が良く甘みが口に広がります」とメールが届いた。
魚をさばくユーチューブを参考に何とか三枚おろしはできた。だが、骨側に多くの身が付いてしまった。さらに、刺し身の中に小骨が残り、味はいいが食べづらい。石井シェフの助言に従い、1匹は身が多く付いた骨と一緒に煮付けにした。なるほどこれは骨離れがよく食べやすい。
外出自粛で自炊派、未利用魚に注目
ポケットマルシェによると、外出自粛で自炊派が増えたこともあり、農家や漁師から直接購入する同社の利用者は20年2月末から約10カ月間で約24万7千人と5倍近くに増えた。「品質が高い」との評価が約7割にのぼる。
最後はASC認証の白身魚パンガシウス(ナマズの一種)をイオンで買い調理してみた。バターで焼くだけでふっくらおいしく食べられる。知らないうちに海洋資源と漁業を守りながらなじみの薄い魚を味わう方法が増えている。
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未利用魚の活用は食文化保護につながる
未利用魚の活用は食文化を守ることにもつながる。シェフの石井真介さんは「10万円分の魚を大量に捕るのと少量でも高い魚で10万円稼ぐのでは、どちらが環境にいいかはっきりしている」と強調する。鮮度を保ち、加工することで、捨てられていた雑魚は価値を持ち雑魚ではなくなる。
未利用魚の価値を上げることは「漁師さんも我々料理人も消費者も得をする。さらに海の資源を守ることになる。そうすれば、今の食文化を何とか継続できる」(石井さん)。石井さんは大好きなウナギを食べるのは年に2回だけと決めている。見習いたい。
(大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2021年5月15日付]
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