ふくらはぎの肉離れ 中高年、急な動きに要注意
新型コロナウイルス禍で外出の機会が減ったとはいえ、適度な運動は心身のリフレッシュに欠かせない。ただ中高年になると、慣れない運動でふくらはぎの肉離れ(テニスレッグ)を起こすことも。注意して臨みたい。
テニスレッグはふくらはぎの肉離れの通称。筋肉が縮んだ状態から急に引き伸ばされるなどして筋肉が断裂してしまう。テニスでサーブをするときに多く、こう呼ばれるようになったとされる。他にも球技で急にダッシュや方向転換、ジャンプといった動きをしたり、十分な準備運動をせずに走り始めたりしたときにも起こる。
ふくらはぎに石が強く当たったような強い痛みから、筋肉の違和感まで程度に差はあるが、発症時に適切な処置をしないと筋肉の中で出血が広がってしまう。痛みが大きくなるばかりか、そのままにしておくと筋肉の柔軟性が失われ、再発しやすくなる。
増本整形外科クリニック(東京・杉並)の増本項院長は「中高年に多いスポーツ外傷のひとつ」と解説する。自らもコートが使えずに趣味のテニスができなくなった際、運動不足を解消しようとランニングをしていて経験した。すぐテニスレッグと気づき、自宅に戻って応急処置をしたが、3週間ほど運動を控える状態になったという。
テニスレッグになったときの対処法として井上整形外科クリニック(熊本市)の井上誠一理事長は「いったん運動をやめ、『RICE(ライス)』と呼ばれる処置をしてほしい」と助言する。安静(Rest)にし、患部を冷やし(Icing)、包帯などで巻いて圧迫し(Compression)、心臓より高い位置まで上げる(Elevation)方法だ。
井上理事長らの調査ではテニスレッグが治るまでに平均30日ほどはかかっているという。その間は日常生活でも、つま先立ちといった動作は控えるよう勧める。整形外科医と相談したうえで、靴にふくらはぎの負担を軽くする中敷きを入れる手もある。
大切なのはしっかり治してから運動を再開すること。「動けるから大丈夫」と無理をしてしまい、結果として筋肉へのダメージを大きくしている人が少なくない。増本院長は「もう治ったと感じても、つま先立ちしてかかとを上げ下げする『カーフレイズ』という運動をあえて慎重にやってみて、痛みや突っ張り、違和感がでないかしっかり確認してほしい」と話す。
予防法としては筋力トレーニングや体の柔軟性を維持するストレッチがよく知られている。カーフレイズもふくらはぎの筋肉を鍛える動きだ。ただ筋トレやストレッチだけで完全に防ぐのは難しい。
増本院長が重視するのは筋肉をコントロールする神経の働きだ。「体を動かすときは通常、縮む筋肉と伸びる筋肉がうまくバランスをとっている。加齢によって神経と筋肉の連係がうまくいかなくなるとこのバランスが崩れ、筋肉に異常な負荷がかかりやすい」と説明する。
神経と筋肉の連係をよくするためにも日ごろから筋肉の動きを意識するのが大切。増本院長が勧めるのは体を満遍なく動かせるラジオ体操だ。
井上理事長は「気温が上がるこれからの季節、水分不足になると筋肉をかたくしてしまう。テニスレッグの原因になる」と警鐘を鳴らす。汗をかいてからではなく、運動の前に給水しておきたい。中高年の場合、屋外に出る前に、室内であらかじめ体を動かして心拍数を上げておくのも予防に役立つという。
しっかり歩ける脚を保つのは健康寿命を伸ばすのにもつながる。適切な運動の知識と習慣を身につけて、脚のトラブルを防いでいきたい。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEI プラス1 2021年5月15日付]
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