東京圏への転入超過縮む でも難しい一極集中の是正
地方から東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)へ向かう人の流れに変化が起きているようです。人が最も動く3月の人口移動は、新型コロナウイルスの影響もあって転入超過が前年から縮小しました。それでも、年内で国が目標にする転出入の均衡は難しい状況です。東京一極集中是正のカギは、東京圏で生まれ育った人たちの「意識」にあるようです。
3月に東京圏へ転入した人は前年から7984人減り、転出した人は4851人増えました。転入超過数は1万2835人縮小して5万7970人です。国が地方創生の取り組みを始める直前の14年3月が5万7668人だったので、縮小したといっても、ようやくスタート地点に戻った程度です。
昭和30年代以降、東京圏が年間で転出超過になったのは、バブル崩壊後の一時期だけです。コロナ下で月ごとの東京圏の人口移動は最大2000人ほどの幅で転入超過と転出超過を行ったり来たりしています。
2021年の年間動向について、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の小池司朗・人口構造研究部長は「まだ転入超過が高水準にある現時点では、転出超過にならない可能性が高い」とみています。
東京圏に住む人も地方への関心がないわけではありません。東京圏在住者を対象にした内閣府の調査で、地方移住に関心がある人は20年5月で30.2%、12月も31.5%でした。
社人研の人口移動調査によると、東京圏在住者の7割は首都圏生まれで、3割が地方出身です。東京圏で地方居住に関心を持つのは地方出身者が多いのではないかと推測できます。
例えば20年1~3月、内閣官房が東京圏に住む1万人を対象に調査したところ、地方暮らしに関心がある人は地方出身者が61.7%、東京圏出身者は45.9%でした。ただ東京圏生まれの人が実際に地方へ移住するのはハードルが高いようです。
社人研の調査では、東京圏生まれの人は、東京圏に住み続ける傾向があります。特に両親が東京圏出身だと、子どもが地方に住む比率は1%です。小池氏は「地方を知らない人が増えている影響が今後大きくなってくる」とみています。
コロナ禍でも東京一極集中を一気に解消するのは難しいでしょう。東京圏で生まれ育った人たちが、地方に関心を持つような地道な働きかけが欠かせません。一方、コロナ禍では感染拡大への警戒から、地方で「よそ者」を過度に敬遠する動きも問題となりました。地方への人の流れを太くするには、首都圏と地方の双方の意識改革が必要なようです。
小池司朗・国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部長「東京圏への転入超過は続く」
コロナ下の人口動向について国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の小池司朗・人口構造研究部長に聞きました。
――2020年の人口移動で東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)の転入超過が縮小しました。
「14年から地方創生に取り組んできたにもかかわらず、東京圏への一極集中が続いていたが、20年はコロナ禍で転入超過に歯止めがかかった。高度成長期以降、3度あった東京圏の転入超過の山は、いずれも15万人前後で頭打ちになっている。バブル崩壊前の1987年が16万人、リーマン・ショック前の2007年が15万人、それにコロナ前の19年が14万人だ」
「東京圏の内訳をみると、東京都は転入超過が縮小しているが、その分を周辺3県が吸収している。東京圏の周りでも群馬、栃木、茨城の北関東3県と山梨、長野、静岡は転出超過が大幅に縮小した。東京都内は23区はマイナスが大きいが、多摩地域はそれほど減っていない。東京圏の転入超過の減少は東京都の減少で、東京都の減少は23区の減少といえる。足元では「郊外化」の流れが進んでいる」
――人口移動が最も多い3月は東京都も転入超過に戻りましたが、今後はどう推移しそうですか。
「東京都は3~4月は転入が多いが、5月以降、20年並みに転出超過の月が続くようだと、21年は年間でも東京都が転出超過に転じる可能性はある。ただ東京圏全体でみると、非東京圏からの転入が減ったとはいえ、まだ転入超過数が高水準にある現時点では、東京圏全体では転出超過にならない可能性が高い」
――20年の国勢調査を受けて算出する2050年までの将来人口推計は、コロナ下の人口移動をどう反映しますか。
「コロナの影響をどこまで織り込むかは難しい。一時的とみるか、長期的な傾向とみるか、いろいろな見方がある。私はそこまで長くは続くかないとみている。10年代後半にみられた大幅な転入超過になるかどうかはわからないが、おおまかな傾向としては東京圏の転入超過は続くと考えている」
――地方では転出超過がやや縮小しています。地方の人口減のペースは和らぎますか。
「45年までの将来人口推計では、非東京圏の人口減少の8割以上は自然減となっている。社会減が人口減少の2割だとすると、転出超過が縮小した場合でも、人口減少のペースはやや緩むかもしれないが、大きくは変わらないだろう。ただ若い世代の動向は次世代の人口分布にも影響を与えるので、コロナの影響で若い世代が多少とも地域にとどまれば、長い目で見て人口減のペースを和らげる要因になる」
――コロナ禍では出生率や出生数も大きく減っています。将来人口推計では日本の総人口の減少ペースが早まりますか。
「出生率、出生数の低迷に加えて、大きな要因になるのが国際人口移動だ。10年代後半は外国人が増えていたが、今はストップしている。これまで総人口の減少ペースが緩かだったのは外国人が増えてきたことによる影響が大きい。これもコロナの影響をどこまでみるかに関係するが、従来より人口減少のペースが早まる可能性は否定できない」
――東京から地方への移住は東日本大震災の後にもブームになりましたが一過性でした。
「社人研の調査によれば、東京圏に住む人は、7割が東京圏出身で、3割が地方出身だ。コロナ下で地方居住を考える人の大半は地方出身の人だろう。東京圏生まれの人は二地域居住などで東京圏と地方を行き来することはあるだろうが、地方に定住するのはハードルが高いかもしれない」
――東京一極集中を是正するには、やはり東京圏出身の人が地方に目を向けるようにしなければならないでしょうか。
「地方出身の人は東京と地元を比べて地方を選ぶ可能性はあるが、地方居住の経験のない東京圏出身の人の多くはその選択肢がない。社人研の調査によれば、両親とも東京圏出身の子どもが地方に住む比率は1%ほどで、転勤などでたまたま地方に住んでいる程度といえる」
――最近は全国の出生数の3人に1人は東京圏生まれです。
「地方を知らない人が東京圏で増えている影響が今後、だんだん大きくなってくるのではないか。ただコロナの影響が長引き、東京圏で生まれた人も含めて、人々の価値観が変わってきたりすると地方居住が大きな流れになる可能性がないとはいえない。地方創生を是とする観点からは、東京圏で生まれた人々の意識に働きかけるような政策が求められる」
――地方創生は総人口について「60年に1億人を維持」、東京一極集中に関しては「東京圏の転出入の均衡」という目標を掲げていますが、成果は芳しくありません。人口目標は地方創生と切り離した方がよいのではないですか。
「人口は大きなトレンドで動くので、短期的な政策とはなじみにくい部分がある。個別の自治体をみれば地方創生関連の施策で人口が増えているところもあるが、横展開して全国的な動きにしていくのは難しい」
――総人口を考えれば東京圏の出生率を上げることが必要で、東京一極集中についてはその東京圏生まれの人々の目を地方に向けることが重要ではないですか。
「そういう面はある。地方出身者ばかりに目を向けていると先細りしていく」
(編集委員 斉藤徹弥)
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