あえてレシピを公開する理由

ミスチはあえてレシピを公開している

ミスチをはじめ、考案した菓子や飲み物のレシピを、田村氏は惜しげもなく公開している。業界では珍しいことだという。「自分で作れるなら、買わなくてもいい」という動きにつながることが、怖くはないのか。

「ミスチは1本4000円弱と、安い価格設定ではありません。だから、自宅で作る方法をシェアすることによって、お客さんが幸せを感じる機会が増えるなら素晴らしいと考えました」

実際に手を動かして作ってみると、「材料を集めるだけでこんなに手間がかかるのか」「レシピ通りに作っても、プロと同じ味にはならない」といった気付きにもつながる。結果的には、ミスチが提供している食体験の価値を、より正しく理解してもらうことにつながっているという。

「同業者に再現されるリスクは、もちろんあるでしょうね。ただ、例えばエンジニア業界であれば、発見された新しい技術はどんどん共有し合って、そこからまた新しいイノベーションが生まれていく文化があります。料理人の業界にも、僕はそういう風を吹き込んでいきたい。少しまねをされたくらいで売れなくなるなら、ミスチにはそこまでの価値がなかったということになると思います」

19年から経営パートナーとして起業家の中川綾太郎氏を迎え、さらに事業を成長させていくための素地を整えた。5人の製造スタッフと田村氏だけで立ち上げた会社は、3周年を迎える21年現在、業務委託やアルバイトも含めると50人ほどの規模になっている。「価値ある技術や能力を持つ人たちが、適切な報酬を得て、持続的な形で働いていけるモデルを確立したい」と、飲食業界全体の変革にも情熱を燃やす。

コロナ禍での状況を見定めながら、見据えているのは海外進出だ。「ミスチを、世界に通用する『トーキョーチーズケーキ』にしたい」。その夢が実現する日はそう遠くはなさそうだ。

(ライター 加藤藍子)

「キャリアの原点」の記事一覧はこちら

マネジメント層に必要な4つのスキルを鍛える講座/日経ビジネススクール

会社役員・経営幹部の方を対象とした、企業価値を高める経営の実務に役立つビジネス講座を厳選

>> 講座一覧はこちら