ミスチで「食体験」を届ける

人気に火がついたのには、偶然の巡り合わせも奏功したが、田村氏はミスチという商品に、確固たるロジックに基づいた可能性をみている。

まずは、圧倒的な「分かりやすさ」だ。シェフ時代、副業で地域の産品をプロデュースする企業の立ち上げに参画し、ノンアルコール飲料や食用バラを使用したアイスクリームなど、様々な商品開発に関わってきた。その経験から、チーズケーキは多くの人に刺さりやすいだろうという予感があった。

「おいしいだけでは、なかなか売れないんです。例えば、バラのアイスクリーム。素材にも味にも自信はありましたが、多くの人に『花を食べる』という習慣がないことなどが壁になって、市場にうまく浸透しなかった。味はよくても、食べ方や調理が面倒だったり、生活に組み込みにくかったりすると、一般向けの商品としては厳しい」

その点、チーズケーキは多くの人にとって親しみのある菓子で、手に取りやすい。想定される「おいしさ」の基準を超えられれば、インパクトは大きいという勝算があった。

田村浩二氏はもともとフランス料理の腕利きシェフだった

「僕はレストランのシェフなので、お菓子屋さんのケーキと同じ土俵で対抗しても勝てない。レストランのデザートは、持ち帰りやすさを考慮する必要がないから、食感の柔らかさや滑らかさを追求できるのが強みの1つです。特別なレストランデザートの世界を自宅で体験できるよう、『冷凍で届ける』という手法を選びました」

ビジョンから逆算して、プロダクト(製品・サービス)の要件を規定していく。世界観を何より大切にするのは、シェフとして培ってきた基本動作だが、その態度は優秀な起業家に必要とされる資質にも重なる部分がある。

さらに、「ミスチを通して、多くの人の『おいしさ』に対する解像度を上げていく」という構想も持っているという。季節に合わせて開発する限定フレーバーで、白トリュフや抹茶をはじめ、少し意外な食材との組み合わせも交えているのは、それが理由だ。

「間口の広い『チーズケーキ』という商品をベースにして、『こういう味わいもあるんだ』という発見の機会、自分の『おいしさ』の基準に気付く機会を提供していきたい」

次のページ
あえてレシピを公開する理由