都道府県で男性職員の育休1位 鳥取県イクボス育成術
総務省は2020年12月、男性地方公務員の19年度の育児休業取得率を発表しました。都道府県別に見ると、目を引いたのが鳥取県。警察部門で50%を超しました。秘密は何か。担当者に話を聞き、お伝えします。
日経クロスウーマン編集部(以下、――) 19年度、首長部局等や警察、教育委員会などを含む男性職員の育休取得率が26.1%と全国で1位でした。
鳥取県総務部行財政改革局職員支援課課長補佐の島谷容子さん(以下、島谷) 15年度の取得率は4.2%でした。毎年、徐々に数字を上げて、ようやくここまで来たなという感じです。
15年度以降、「男性職員に育休を取ってもらおう」と県職員全体に積極的に働き掛けてきたことが大きいです。結果として、首長部局等と警察部門で取得率が大きく伸びました。首長部局等は15年度は8%、19年度は25%でした。警察部門は、15年度は0%だったのに対し、19年度は56.5%まで伸びました。
「イクボス」であることをマネジャー評価のプラス要素に
―― 具体的にはどんな取り組みをしてきたのでしょうか?
島谷 育休取得をためらう男性職員の理由には「業務に支障があるのではないか」「同僚の負担にならないか不安だ」などがあります。それに対応するために、まず首長部局等は、マネジャーたちの意識を改革することから始めました。
15年度に県知事が経済団体などと共同で「イクボスとっとり共同宣言」を出しました。「イクボス」は、部下の仕事だけでなく、プライベートにも配慮するマネジャーです。職員の課長クラス以上に、イクボスとしての意識を持ってもらい、マネジメント術を身につけてもらうことを狙いました。15年度以降には、外部からイクボス育成のための講師を招き、研修を開きました。
マネジャーの評価で「イクボスであるかどうか」も一つのポジティブな要素にすることを、職員に対して明確にしたことも大きいです。子どもがいる職員や男性職員が少ないマネジャーもいますので、男性の部下が育休を取得したかどうかが、即プラス評価になるわけではありません。ただ「イクボスであることが評価される際のポジティブな要素」という点を明確にしました。
こうした取り組みを続けてきたことにより、男性職員の育児休業に理解のあるマネジャーが増えました。マネジャー側から積極的に、育休の対象となる男性部下に対して「取得してみたら?」と働きかけるようになってきています。
さらに、20年度からは育休の対象となる男性職員とマネジャーは面談し、マネジャーは職員に「1カ月以上の育休取得を勧める」ことを義務としました。これにより、今後、男性職員の育休取得がより進むと考えています。
・マネジャーの意識改革から始めた
・マネジャーを評価する際に「イクボス」度をプラスの評価にすることを明確に
・20年度以降、マネジャーは対象男性職員と面談し、1カ月以上の育休取得を勧めることを義務に
・育休中の給与への影響試算シートを誰でもアクセスできるデータベースに随時掲載
また、育休中の収入減を不安に思う職員への対応もしました。具体的には育休中の給与への影響試算シートを作成。育休予定期間と現在の収入を入力するだけで、育休中の収入の目安が分かるようにしています。
一般のウェブサイトにも類似のシートがあります。このシートは鳥取県の職員専用なので、よりリアルな試算ができます。全職員がアクセスできる県庁内のデータベースにアップしていますので、育休中の収入について、人事部や上司にわざわざ問い合わせずに済み、気軽に試算できるようになっています。
トップダウン組織の強み
―― 警察部門の男性育休取得率は19年度に56.5%です。警察で2位の青森県の14.9%を大きく上回ります。
鳥取県警察本部警務課課長補佐の河原裕恵さん(以下、河原) 17年度は1.1%、18年度は6%と低迷していました。15年度の「イクボス」宣言は県全体に対するものでしたが、県警ではなかなか、浸透させることができずにいました。
転機となったのが19年度初頭の警務部長通知です。警務部長は県警本部長に次ぐ、県警のナンバー2です。警務部長名の通知で「1歳未満の子を養育している男性職員は、本人の意向を尊重したうえで、可能な限り2週間以上の育児休業を取得すること」と明確にしました。
―― 通知だけで職員の意識が変わるものですか?
河原 警務部長の通知は、県警の男性職員からすると「衝撃的」でした。というのも、県警の男性職員にとって、育休は「取るか、取らないか」という選択ができるものという感覚がそもそも、あまりありませんでした。
・トップが「男性に育休を取ってほしい」という意向を明確にすること
もちろん、制度上は取ることが可能です。しかし、例えば、15年度の男性の育休取得率は0%です。その前の年も、その前の年も……という状況では、男性職員が育休を取るという考えを持つこと自体が難しかったのかもしれません。警務部長の通知で「男性でも取れるものなんだ」という意識が広がり、実際に取ってみようと思う職員が増えました。
―― それでも、現場の職員からは、言い出しにくいのではないでしょうか?
河原 警務部長が通知を出すということは、つまり現場の上司たちの通知でもあるわけです。現場の上司たちも当然「県警全体で男性育休を普及させたいのだ」ということをすぐに理解してくれました。育休の対象となる現場の警察官が「取得したい」と申告した場合、上司がそれに難色を示すことはないと、県警全体に理解が広がっています。
―― トップダウン式の警察組織らしい側面かもしれないですね。急に男性育休取得率が上昇することで、現場の混乱はありませんでしたか?
河原 詳しいヒアリングがまだできておりませんが、業務の引き継ぎや育休取得を早めに報告するなどの工夫で混乱は最小限に抑えられていると聞いています。
―― 他県の警察の男性職員の育休取得率は、ほとんどが数%です。0%も珍しくありません。鳥取県同様にトップが方針を明確にすれば、男性の取得者が増えそうですね。
河原 その可能性はあるかもしれませんね。鳥取県では警務部長が通知を出す前に、県警トップの女性本部長が「男性育休を何とか広めたい」という意向を持っていました。そういった下地があったからこそ、警務部長の通知が出た際、職員たちが「やっぱり県警は本気なんだ」と感じてくれたんだと思います。
男性地方公務員の育休取得率を上げるために各自治体はどのような取り組みを行っているのか。鳥取県ではトップが明確な指針を示し、人事や総務部が地道な声掛けをすることで男性育休の推進に成功していることが分かりました。
・組織のトップが「男性育休を推進したい」と明確にする
・人事、総務など現場の「外」から、育休取得者のいる職場に働きかける
・働きかけは育休対象者ではなく、マネジャー層へ働きかける
(取材・文 飯島圭太郎=日経xwoman)
[日経xwoman 2021年4月14日付の掲載記事を基に再構成]
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