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成城石井「いちごバター」 愚直さが生んだ大ヒット

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日経クロストレンド

イチゴの王様と呼ばれる「あまおう」をふんだんに使ったバター入りのスプレッドを、こんがり焼けたトーストにたっぷりと塗り付ける――。そんな至福のひとときを演出するのが、成城石井の「あまおういちごバター」(税込み862円)だ。2020年夏に数量限定で発売されると、Twitter(ツイッター)上では、「やっと買えた!」「危険なおいしさにクラクラ」といった声が上がった人気商品。その再販が、21年4月下旬にスタートした。

 20年は4万2000個を抽選販売やオンラインショップでのみ取り扱った幻の商品。再販を熱望する消費者の声に応え、復活を果たした。

人気商品「いちごバター」のプレミアム版としての発売

大人気の理由は、15年の発売から品薄状態が続く「いちごバター」(税込み755円)の、さらにプレミアム版との位置付けだからだ。従来のいちごバターは、「とちおとめ」や「紅ほっぺ」などの国産イチゴを数種類ブレンドして製造する。あまおういちごバターは福岡県で栽培されるあまおうのみを使用するため、その希少さから期待感が高まった格好だ。

プレミアム版で訴求したのは、「あまおうらしさ」。商品本部でグロサリー部門を統括する坪井元氏は、「あまおう特有の赤さと粒の大きさをどう強調するかが大きな課題でした。バターを入れ過ぎると色合いが弱くなり、イチゴを煮詰め過ぎると粒が崩れてしまいます。色と食感のバランスを考えながら、10回程度作り直しました」と説明する。

シリーズを発売した15年の売り上げは今ほどではなかったが、発売から数日でヒットの手応えを感じていたという。「商品の売り上げは発売から3日間の実績で1カ月先が予想できます。いちごバターは初めから高水準の売り上げを見せていたため、いけると踏んでいました」(坪井氏)

たとえ売れ行きが好調でも、スプレッドはすべて職人が手作業で作っており、大量生産が難しい。入手できる国産イチゴの量はその年の気候に左右され、職人が味を確かめながら毎年作り直しているためだ。

それでも製造会社は供給体制を少しずつ整え、販売本数は大きく伸びてきている。15年に6万本でスタートすると、17年は2万5000本と減ったものの、供給体制が整った18年は10万本、19年は20万本。20年は10万本に加え、あまおういちごバター4万2000本を併売した。

あまおういちごバターは偶然の産物だった

13年ごろから高級食パンブームが始まり、消費者が求めるスプレッドも徐々に多様化していった。15年発売のいちごバターもその流行を狙ったものかと思いきや、坪井氏は全く考えていなかったと打ち明ける。「当時は輸入品のジャムがたくさん入ってきており、果実を煮詰めただけのジャムに対する閉塞(へいそく)感がありました。いちごバターのような商品を思いついて、作ってみたら、たまたまおいしかったのです」

あまおうとの出合いもまた偶然。バイヤーが九州に食材を買い付けに行った際、あまおうの仕入れ先と出会ったことがきっかけだった。「いちごバターをあまおうだけで作ってみると、味が全然違いました。安定供給できていなかったので追加するか悩みましたが、この味もお客さまに届けたい」と思い立った。

商品を自社ブランドとして開発し、販売まで手掛けることも有利に働いた。一般的な製造会社が商品開発を依頼された場合、たとえ味に多少納得がいかなくても、納期までに完成したベターな商品を納品するだろう。発売日をある程度自由に決定できる成城石井の場合、製造会社が納得する味ができるまで待てる。作り手にできるだけ負担をかけず、ベターではなくベストな商品を作らせる風土が、いちごバターの人気の秘密といえる。

こうした味と品質を、消費者は敏感に感じ取った。トーストといちごバターの瓶を一緒に映してSNS(交流サイト)にアップする人が続出し、クチコミで希少価値がクローズアップされていった。「成城石井のお客様は目も舌も肥えた人が多く、そんじょそこらの商品では納得してもらえません。果実の味としっかりと向き合う製造会社と、いちごバターとの相性が非常に良かった結果です」(成城石井)

「狙って・仕掛けて」というマーケティングを展開する企業が多い中、純粋に職人の力を引き出したいちごバター、そしてプレミアム版のあまおういちごバターがヒットをつかんだ。働き方改革が進んで、コスパや効率性といったワードが一層飛び交うようになったが、愚直な商品づくりにも人は集まることを示している。

(日経トレンディ 寺村貴彰)

[日経クロストレンド 2021年4月28日の記事を再構成]

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