人気スライサー5種を検証 極薄カボチャができたのは
合羽橋の台所番長が調理道具を徹底比較【硬い食材編】
東京・合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回から2回にわたって人気のスライサー5種類の切れ味を、硬い食材、柔らかい食材で比較検証する。第1回は硬い食材編をお送りする(価格はすべて税込み)。
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こんにちは、飯田結太です。野菜を千切りや薄いスライスにしたいとき、包丁だと時間がかかってしまいますね。こんなときに重宝するのがスライサーです。1日に何キロもの野菜を扱うプロにとって、スライサーは必須調理道具のひとつ。プロがスライサーを選ぶポイントは、切れ味が長続きすることはもちろん、使いやすさ、手や腕が疲れないかどうか、刃が替えられるなどの応用が利くかどうかです。
今回は、プロに人気のある5種類のスライサーの切れ味、応用力があるかどうかを、硬い食材、柔らかい食材で比較検証しました。まずは、5種類のスライサーを紹介します。
プロが一度は持つロングセラー
ベンリナー(山口県岩国市)という、スライサー専門メーカーの代表的な製品「万能野菜調理器ベンリナー」。冗談みたいな名前ですが、毎日売れている製品です。切れ味が長く続くのは当たり前ですが、プロに愛用されている理由は、平刃のほかに、千切りの太さが変えられる替え刃が付いていること。そして、厚み調節するネジが優秀なことです。一般的なスライサーは、厚み調節ができると表示されていても、左右の厚みに偏りができてしまうことが多いのですが、これは、しっかりとしたネジによって、左右均等の厚みになります。その精巧さは海外でも知られており、指名買いされるほどです。
スライス野菜がおいしく感じるスライサー
「ベルナーV5」は、50年以上もの歴史を持つ、ドイツ、ベルナー社のスライサーシリーズです。刃が鋭角なV字になっているのが大きな特徴。包丁で野菜を切るときのような、引き切りに近い感覚で切れます。刃をよく見ると、細かいギザギザ刃「マイクロエッジ刃」になっているので、食材をしっかりキャッチして安定したスライスができます。厚さの調節は、V字刃が付いた板をカチャカチャと移動させるだけ。まるでプラモデルのような作りが面白いですね。切れ味が鋭いので、野菜の細胞がつぶれにくく、野菜本来のうまみがそのまま味わえるのもベルナーの特徴。これで玉ねぎを切ると、玉ねぎから目に染みる成分が出にくく、泣かずにスライスできます。
世界的なレストラン、料理家愛用の高級ライン
有名料理家や、ミシュランで常連となっている高級レストランのシェフが愛用しているのがこちら。ドイツの老舗調理道具ブランド、レズレーの「アジャスタブルスライサー」です。スライサーの中では珍しいオールステンレス製で、衛生面で安心度が高く、デザインもかっこいいので、ファンが多いんです。足付きでゴムの滑り止め付きなので、ボウルやバットにしっかり引っ掛かるのが特徴。動かないのでスライスするのがスムーズです。また、0.3ミリメートルごとに厚さの調節ができるのはこれだけ。細かく厚みを調節したい人におすすめです。
幅広・波刃で大きい野菜も対応
新潟県三条市の調理道具メーカー、アーネストの「スーパーキャベツスライサー」。名前の通り、キャベツの千切り用に作られた製品です。これでキャベツを千切りすると、ふんわりしているのにシャキシャキな食感の千切りができます。波刃なので角度が鋭角のところと鈍角のところが交互にあることで、切れ味が良いと好評です。ほかのスライサーとは違い、特定の野菜用に作られたものがどこまで応用できるかはこの後の検証で。
超極薄スライス専用スライサー
協和工業(大阪市)の「夢ゲンスライサー」は、超極薄の0.5ミリメートルにスライスできるのが特徴。キャベツはふわふわ食感になり、トマトやキュウリ、玉ねぎなども薄く切れると好評。凹凸刃のため、食材が程よく刃に食い込み、切れ味が長続きするのだそうです。厚さの調節ができないのが残念ですが、シンプルなスライサーとして人気。
以上5種類で検証します。結果は?
外側硬め、実がつぶれやすいレモンで検証
レモンは外側が硬く、実が繊細でつぶれやすいため、意外とスライスしづらい食材。包丁だと、しっかり研いだ刃にしないと、きれいに薄くスライスするのは難しいんですよね。皮と果肉で硬さが均一ではない食材はどのようにスライスされるのか、さっそく検証します!
※厚さが調節できるものは約1ミリメートル、または1.5ミリメートルに設定。
◆万能野菜調理器ベンリナー
力を入れずにきれいに切れるのは、さすがプロ用でした。
◆ベルナーV5
めちゃくちゃ軽い感触で切れました。V字の刃のエッジがしっかりしているのが分かりました。
◆アジャスタブルスライサー
予想に反してレモンの果肉が刃に引っ掛かり詰まってしまいます。刃の厚み調節は0.3ミリメートル刻みで変更できるので、最初は、1.2ミリメートル厚、1.5ミリメートル厚でスライスしてみましたが、うまくいきませんでした。1.8ミリメートル厚にしたらきれいにできました。
◆夢ゲンスライサー
0.5ミリメートル厚の極薄専用スライサーなので、やはり果肉が引っ掛かってしまいました。スライスしたレモンは果実味がない状態に。
◆スーパーキャベツスライサー
スライスしようとすると、果汁が出てしまいます。波刃はレモンのような果汁が多く含まれるものには適さないようです。
検証の結果、断面が美しく、果汁もしっかり含まれていて果実もまったくつぶれていないのは、ベルナーV5。圧倒的な切れ味でした。
1位 ベルナーV5
2位 万能野菜調理器ベンリナー
3位 アジャスタブルスライサー
4位 夢ゲンスライサー/スーパーキャベツスライサー
力を入れずに軽くスライスできた製品が、断面の美しいレモンスライスになりました。レズレーのアジャスタブルスライサーは、厚さの調節が細かくできていいのですが、刃の幅がほかのものに比べて狭いことが、引っ掛かりやすくなった要因のようです。極薄スライス専用の夢ゲンスライサーは、果汁がたっぷり含まれる食材は難しいですね。スーパーキャベツスライサーはキャベツに最適な波刃が裏目に出てしまったように思います。
難関、カボチャのスライスに挑戦!
野菜の中で、包丁で切るときに力と十分な注意が必要といわれるのがカボチャ。重く硬いカボチャは、ぶつ切りにするのが精いっぱいという方も多いでしょう。熟練のプロでなければ、包丁でスライスするのは危険です。ではスライサーならどうでしょうか。検証してみたら、意外なことが分かりました。
※厚さが調節できるものは約1ミリメートル、または1.5ミリメートルに設定。
◆ベルナーV5
硬いカボチャもサクッと軽い力でスライスできました。手で触ってみると表面がツルツルに。これなら力が弱い方でも安心してスライスできますね。
◆万能野菜調理器ベンリナー
刃の幅は決して広くはないのですが、スライスしやすい。刃が斜めに取り付けられているのが切れ味の秘密のようですね。
◆アジャスタブルスライサー
足付きで、ゴムが付いているので滑らずしっかり固定できるのですが、刃の幅が狭いため、大きなカボチャのスライスにはコツが必要でした。なるべくカボチャの角を刃に合わせていくと切りやすくなりました。
◆夢ゲンスライサー
力を入れれば切れるのですが、ときどき刃に引っ掛かるのが気になります。原因は、ギザギザの凹凸刃。カボチャの皮が凹凸刃に引っ掛かり、断面もギザギザになってしまいました。
◆スーパーキャベツスライサー
夢ゲンスライサーよりも引っ掛かりやすく、断面もでこぼこになってしまいました。
検証の結果、大きくて硬い、重いカボチャのスライスでも軽くサクッとスライスできたのは、ベルナーV5でした。
1位 ベルナーV5
2位 万能野菜調理器ベンリナー
3位 アジャスタブルスライサー
4位 スーパーキャベツスライサー/夢ゲンスライサー
刃の幅が狭いと大きなカボチャは難しいと予想していたのですが、刃の幅が狭いベンリナーは切れ味が良く、反対に刃の幅が十分にあるスーパーキャベツスライサーは引っ掛かって切れにくい結果になりました。スーパーキャベツスライサーの刃は波形、夢ゲンスライサーは凹凸刃ですが、硬くてでこぼこしているカボチャの皮には、どちらも適さないようです。カボチャをスライスするなら平刃ですね。
硬い食材編では、ベルナーV5が圧倒的な切れ味でした。後編は柔らかい食材編をお送りします。(談)
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
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