全ての子供が十分な教育を
受けられる社会へ
――ご自身の子供たちと貧困問題を話し合うことはありますか。
13歳の長男と11歳の長女は、昔の僕のように経済的に厳しい暮らしもしていないし、友達に貧困に苦しんでいる子もいないので、貧困の現実に触れたことはないと思います。でも、話はたくさんするようにしています。
以前フィリピンに家族で旅行に行った時、移動中のクルマが現地の子供たちに囲まれたことがありました。ボロボロの服を着て、「お金ちょうだい」と言ってくる。そこで僕は息子たちに、「この子たちは生活に困っているのかもしれない。どうしたらいいと思う?」と聞きました。すると息子は「お金をあげたらいいと思う」と答えた。
――どう返しましたか?
僕の考えをフラットに説明しました。「この子にお金をあげると、背後にいる大人にお金が渡る。それは、この子がその大人の『収入源』になってしまうことを意味する。だからお金をあげては駄目だ。この子にはアメをあげて、お金はフィリピンの貧困層支援に取り組む団体に寄付するよ」と。
――普段の生活でも、お金の大切さを意識的に伝えているとか。
お小遣い制ではなく、欲しいものがあったら家の中で働いて、その「稼ぎ」で買わせるようにしています。掃除や食事の時のお皿運びなど仕事内容は金額に応じて様々です。働いて稼ぎ、それで欲しいものを買う、という経験をさせたい。「何でも手に入る」という状況はつくらないようにしています。
一方で、子供にお金の心配はさせたくないとも思っています。自分が子供時代に抱いていた不安やコンプレックスは感じてほしくない。やりたいことには気兼ねなく挑戦してほしいし、そのための経済的サポートも惜しみません。
自分自身を振り返れば、「貧乏育ち」だったからこそ得られたものがたくさんあります。お金がなくても何とかしようとする工夫、ハングリー精神、感謝の気持ちや小さなことに幸せを感じる力などです。でも、だからといって子供たちに貧乏暮らしを経験しろというのも、厳しい環境にいる子に「歯を食いしばって頑張れ!」というのも違う。貧困に苦しむ子供がいなくなり、皆が同じスタートラインに立てるように、支援の輪を広げていきたいと思っています。
――私たち大人にはどんな行動が求められますか?
一つは、有権者として持っている力を生かすことです。選挙では、候補者がどんな教育政策や貧困対策を掲げているのかを見て投票する。地元の議員と顔を合わせたら、「地域の貧困問題をどう考えていますか?」と必ず聞くようにするなど、できることはたくさんあります。一人ひとりが自分にできることを着実にやっていけば、支援の輪が広がり、多くの子供のところに届くようになるはずです。
パトリック・ハーラン著/SBクリエイティブ/990円(税込み)

1970年生まれ、米コロラド州出身。93年に米ハーバード大学比較宗教学部卒業後、来日。英会話講師などを経て、お笑いコンビ「パックンマックン」を結成。NHK「英語でしゃべらナイト」など多くのテレビ番組に出演、注目を集める。「AbemaPrime」でアンカー、「報道1930」でコメンテーターを務めるなど報道番組でも活躍。2012年から東京工業大学非常勤講師を務め、コミュニケーションと国際関係についての講義を行う。『ハーバード流「聞く」技術』など著書多数。
撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希
[日経マネー2021年4月号の記事を再構成]