女子がハマる韓国酒場はド直球! 本場風屋台で幸せに
女性は「韓国グルメ」が大好きのようだ。韓国好きが高じて年に何度も韓国を訪れるという話もよく聞く。筆者の知人にも少なくない。東京・新大久保のコリアンタウンが10代からシニアまでの客でいつも混んでいることがそれを示している。
ただ、新型コロナウイルス禍でいまや簡単に韓国旅行には行けなくなってしまった。そこで注目されているのは、韓国の屋台や夜市を再現したような韓国酒場だ。首都圏でも関西でも次々に新しい店が現れている。その先駆けと言えるのが、東京の都営新宿線馬喰横山駅のすぐ近くにある「豚大門市場(トンデムンシジャン)」馬喰町店(東京・中央)だ。
「豚大門市場」という店名は、韓国・ソウルの主要繁華街の一つ「東大門市場」のもじり。発音が一緒のところが、命名したオーナーのセンスを感じる。1号店の馬喰町店は、2011年の開店だが、2021年になって横浜に2号店ができ、近く東京・渋谷に3号店ができるようだ。
韓国料理というと焼き肉をイメージしてしまうが、焼き肉は日本でアレンジされたもの。その点「豚大門市場」は、本場韓国の屋台の雰囲気を再現している。旅行に行かなくても韓国気分を味わうことができる。それもおいしく、手軽にだ。
メイン通りから少し入ったところにある店に入ると、「ここは日本か?」という外観に圧倒される。看板の一つには漢字で「豚大門市場」と書いてあるので、認識はできるが、ほかの看板や店頭ののれんは、すべてハングル。日本にも韓国料理専門店やスンドゥブ専門店はそこそこの数はあるが、ここまで振り切っているのは珍しい。
店内に入るとさらにカオスだ。店内にもハングルで書かれたポスターのようなものであふれ、店の奥にあるテレビも韓国の番組を流している。そしてよく分からないのは、天井近くには万国旗がいくつもつるされていること。「なぜそこで万国旗?」とツッコミを入れたくなる。テーブルはメラミン樹脂らしきものを貼った小型のもの。そしてイスは町中華にありそうな中央に穴が空いたスチール製の丸イス。屋台の持つチープさが満載だ。
料理は、本格的だ。
豚のバラ肉を鉄板で焼くサムギョプサルが売り物。店名の「豚」はこれを示している。各テーブルにカセットタイプのコンロを用意してあり、これで焼いて食べる。イチオシは「チーズフォンデュ サムギョプサルセット」(2948円)。2人前の肉とキムチ、サニーレタスなどの野菜とチーズがセットになったものだ。肉はブランド豚である山形産の庄内豚。焼いた肉をチーズフォンデュのようにチーズに絡めて食べる。
済州島の溶岩石を焼き板に
ユニークなのは、それに火を通すのが単純な鉄板でなく、韓国南部、済州島の溶岩石を加工して作った焼き板を使うこと。コンロを傾けて、脂を片側に集めるという焼き方はサムギョプサルそのもので、基本的には最初はスタッフが焼いてくれる。キムチも一緒に鉄板で焼くことで、熱を通すとうま味が増すという特性をうまく活用している。
焼き肉と違い、肉は事前にタレをまぶさず、そのまま焼いて野菜で巻いて味噌をつけて食べる。カリッとした肉の食感と味噌とキムチのうま味が印象的だ。ただ、焼き肉がまったくないわけではなく、つぼ漬けやハラミなどを鉄板で焼く牛肉メニューもある。ただ、せっかく訪れるなら、サムギョプサルにチャレンジした方がよいと思う。
客は圧倒的に女性が多い。土曜日の夕方、午後6時。馬喰横山は、もともと繊維問屋などの会社が多く、周囲に中小企業が多い。近年、再開発でマンションも増えており、住宅街としての色合いも濃くなっている。ただ、休日で仕事帰りとは思えないのに、女性が多いのだ。ほとんどは女性の2人客やカップル。30代から40代が中心というところか。予算は1人3000円から4000円ほど。チェーン居酒屋より一段階高いため、20代はあまり見かけなかったが、訪れた日は、店内はもちろん、店の外にあるテラス席も一杯だった。
「豚大門市場」が人気なのは、サムギョプサル以外のメニューも充実しているところにある。チヂミやチャプチェ、トッポギなど韓国屋台の定番と言える商品だけでなく、日本の韓国料理店ではあまり見かけない料理もそろえている。
つまみでいうと「にんにく青唐炒め」(440円)。韓国は青トウガラシを食べる習慣があり、家庭ではしょうゆ漬けを作って、それを豚肉などの様々な食材と炒める料理をする。日本でも韓国好きが増えてきたためか、レシピサイトを見ても、多くの青トウガラシレシピが掲載されている。
だが、「にんにく青唐炒め」は、ド直球だ。メイン食材はニンニク。あとは青トウガラシのみを加えて、ゴマ油とバターで仕上げている。これがなかなか良い。ニンニクの火の通し方が絶妙で、表面はカリッとしながら、軟らかさがあり、青トウガラシの辛味がアクセントになる。これは酒が進む。ビールはもちろん、ハイボールやレモンサワーも行ける。1人で全部食べるのは、食後の臭いの問題もあり、少し怖いが、2人以上なら注文すべきだろう。
じわじわ増える韓国酒場
韓国版目玉焼きといえる「スパムケランフライ」(572円)も見逃せない。スパムは、沖縄やハワイでよく使うポークランチョンミート、ケランは卵で、これらに火を通したものだ。「豚大門市場」では、ピザの台のような円形の鉄板の上に、卵2つの目玉焼きではなく、卵3つを使いその間にハム3つを配している。味は想像通りだが、失敗のない味。そしてこちらもボリュームがある。572円はお買い得だ。
「トゥンカルビ」も面白い。まだ日本ではあまりメジャーではないが、韓国では数年前から話題の揚げ物だ。豚の背中側の骨付き肉(バックリブ)を揚げたもので、韓国らしくチーズを絡めて食べるのが定番。「豚大門市場」は、揚げたままだが、1~2人前の約300グラムで1100円。人数に合わせて増量もできる。韓国の酒飲みは、これに合わせて韓国焼酎を飲むそうだ。
「らしさ」はドリンクにも言える。「マッコリの飲み比べ」(638円)を提供しているほか、提供方法としてグラスだけでなく、やかんを使ったりしている。グラスは400円台だが、やかんだと1650円相当。韓国屋台を目の前にすることで金銭感覚がだんだんまひしてくる。旅行に行くと、思っていた以上に散財してしまうように。とは言っても、5000円を使うのは結構大変だろう。人気の秘密は、ここにもある。
韓国酒場は、これから間違いなく来る居酒屋のコンセプトだ。都内でもじわじわ増えているし、大阪・梅田では韓国酒場、韓国料理店、韓国スイーツ店など、3階建てビル丸ごと韓国という名所も登場している。韓国は隣国で、もとより日本と近しい食文化を持ち、人の交流も多い。
個人的には、「豚大門市場」のような屋台風の韓国酒場が増えてほしい。街中が和風の激安酒場ばかりになり、少し飽きてきているので。
(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)
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