2021/6/6

意外にスムーズなエンジン

デュアルクラッチ式の7段DCTをDレンジに入れて、アクセルペダルを軽く踏み込んでみる。想像していた「ホロホロ」という3気筒特有の音や振動を感じることなく、エンジンはスムーズに回転を上げた。排気量から想像するよりはるかにアイドル回転付近からのトルクの立ち上がりはリッチだ。

技術の勝利だ、と思う。

ダイレクトインジェクションシステムがばっちりのタイミングでどんぴしゃの量の燃料を噴射する。バルブトロニックとダブルVANOSのコンビネーションで正確かつ自在にバルブを動かし、省燃費と高トルク、そして好レスポンスを実現する。

こうしたBMWが長年磨き上げてきた内燃機関を精緻に作動させる技術によって、3気筒のホロホロ感も、小排気量エンジンのスカスカ感も過去のものとした。3気筒のネガは消え、軽量コンパクトで吸排気の効率に優れるという美点だけが残った。

直3エンジンと、限られたパワーを効率的に地面に伝える7段DCTの連携プレーに感心しながら、とある有名料理人がなにかのインタビューで語っていた言葉を思い出した。発言の趣旨はこんな感じ。

「冷凍や冷蔵物流のテクノロジーが進化したことで、昔のように海産物を塩漬けにして運ぶ必要はなくなりました。だから奥さん、いまや近所のスーパーだって、臭いイワシなんて売ってないですよね? 昔の料理の教科書に載っていたような、イワシの臭みを消す下処理なんて必要ないわけで、私たちはいまの時代の新しい常識を学ばなければなりません」

そう、だから、直3だからダメという古い常識から解き放たれないといけないのだ。

音や振動が大きいという3気筒エンジンのイメージをくつがえす、「BMW 218iグランクーペ」。1.5リッターとは思えない出足のよさも印象的だった。
サテン仕上げの格子を持つキドニーグリル。空気の流入量を調節してエンジン温度を最適化させるグリルシャッターが備わる。
フロントに横置きされる1.5リッター直3ターボエンジン。1480rpmという低回転域から220N・mの最大トルクを発生させる。
FFの駆動方式により、車内のスペースにはゆとりが生まれた。後席の足元スペースは、ボディーサイズの近い「2シリーズ クーペ」のものより3cm以上広がっている。
荷室の容量は5人乗車時で430リッター。フロアの下にも予備の収納スペースが確保される。

コーナリングは感動もの

「でもこのエンジン、ありがたみは感じられないよな」と、ノムさんが意地悪にささやく。

それはその通りで、実用エンジンとしてはまったく不満はないものの、突き抜けるような回転フィールとか、胸のすくような快音とか、シートに体を押しつけられるような加速感といった、プラスアルファは感じられない。

ここは難しい。BMWに期待するのは、「不満のないエンジン」ではなく、「感動するエンジン」であるからだ。

一方で、シャシー性能、コーナリングの楽しさは感動するレベルだ。

試乗したのは「Mスポーツ」グレードで、足まわりは固められたバネと強力なダンパーとスタビライザーが組み合わされる。乗り心地はビシッと引き締まっているけれど不快ではない。それは、路面からの突き上げがどこか一点に集中してビシッと脳天に響くのではなく、ボディー全体で受け止めているからだ。野球の硬式球をバットで打つように、硬いけれど気持ちがいい。

ハンドルを切れば素直にノーズをインに向け、「FFだからふくらむんじゃないか」というイメージは一掃される。コーナリング中にパワーを与えても動きは滑らかで、一般道をスポーティーに走らせる程度であれば、FRかFFかを言い当てる自信はない。それくらい、ターンインもコーナーからの脱出もニュートラルだ。

メーターパネルはフル液晶タイプで、他の最新のBMW車と共通のグラフィックデザインが採用されている。
「218iグランクーペMスポーツ」は「Mスポーツステアリング」を標準装備。操舵に対して常に最適な切れ角が得られるよう制御される。
「Vスポーク スタイリング554M」と名づけられた18インチアルミホイールは、セットオプション「Mスポーツプラスパッケージ」に含まれる。標準でもサイズは同じ8J×18インチだが、意匠が異なる。
「2シリーズ グランクーペ」は、タイヤスリップコントロールシステム「ARB」を装備。コーナリング中のアンダーステアが抑制される。
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