コロナ禍で広がるタッチレス 採寸やエレベーターも
コロナ禍で人やモノとの接触を避ける傾向が強まっている。そうしたなか、店員が触れずに採寸したり、指をかざすだけでエレベーターを操作したりする非接触型サービスが広がる。
スマホで撮るだけで採寸
「手の先を伸ばして立ってください」。4月半ば、西武池袋本店(東京・豊島)のワイシャツ売り場で、店員の指示に従って記者が直立すると、店員が正面と側面からスマートフォンで撮影。スマホ画面には首周りやゆき丈、バストやウエストの長さなど24項目の採寸結果が表示された。
昨年11月から同店とそごう横浜店で始めたワイシャツの非接触採寸サービスだ。年齢や身長、体重を打ち込むと、スマホのアプリ「ボディグラム」が入力情報を加味しながら、人工知能(AI)が写真から各項目の数値を割り出す。店員はこの数値を基に客に合ったシャツを探せる。
記者は典型的な中年太り。首周りは43センチと太く、これまでなかなか体形にぴったり合うワイシャツはなかった。だが、店員が提案してくれたワイシャツを試着すると、首周りやゆき丈はちょうどいい長さで、胸や腹回りも突っ張り感やだぶつくことがなく楽に着こなすことができた。
同店ではコロナ禍で他人に触れたメジャーに抵抗感のある客もいるとして、使い捨ての紙製メジャーを使ったが、店員が体に触れること自体を嫌がる客もいる。そこで導入したのがこのサービス。担当の車田裕樹さんは「3カ月間の期間限定の予定だったが、好評だったので通年で提供することを決めた」と話す。
ボタンに触れずに行き先階を指定
ほかにも日常生活で接触感染を気にする人は多い。買い物かごやトイレのドアノブは典型例だが、同様に接触機会が多いのがエレベーターだ。上下や開閉のボタンや行き先階を押す際、親指や人さし指ではなく、小指の関節やキーケースの角などを使う人もいる。ボタンに抗菌シートを貼る例もある。だが、接触することに変わりはなく、完全に感染を防ぐのは難しい。
そんな不安を払拭するのが、タッチレスでエレベーターの操作ができるフジテックの「エアータップ」だ。ボタンから赤外線が出ていて、手や指をかざすとセンサーが検知する。もとは病院や食品工場など衛生面を重視する施設向けに開発したが、コロナ禍で最近は商業施設やオフィスビルでも採用されている。
東京都港区にある同社のショールームを訪ね、タッチレスを体験した。丸ボタンや角ボタン、縦1列や2列など、さまざまなエレベーターのパネルが並ぶ。行きたい階のボタンに指を近づけると、ボタンが光り反応したことがわかる。これなら接触感染を気にせずに操作できると感じた。
ただ、便利なことばかりではない。目の不自由な人は誤操作する恐れがある。エアータップはこれを防ぐため、指や手がボタンから1センチ以内であれば反応しない。壁伝いに手を動かしボタンをなぞれば反応せず、凹凸や点字で階を認識して押すだけだ。
外食でも広がる非接触
タッチレス化は飲食業界でも広がる。代表例が回転ずし大手、くら寿司の非接触型店舗だ。今年1月にオープンした渋谷駅前店もその一つ。午後3時すぎに訪ねたが、若者の街らしく若いカップルや学生グループで混雑していた。
案内機で受付を開始。パネルに指を近づけるだけで人数を入力でき、発券されたレシートに書かれた番号の席に座る。席にあるタッチパネルで表示されたQRコードを自分のスマホで読み取れば、スマホの画面にメニューが表れ注文できる。レーンに流れる皿を取ると小型カメラが枚数を計算。食後、皿をすべて投入口に入れ、投入完了と会計ボタンを押した後、レジでレシートのバーコードを読み取らせて会計を済ませる。その間、店員との接触は一切ない。
今のところ投入完了と会計ボタンだけはパネルに触れないと反応しないが、今夏までにこれもタッチレス化して完全な非接触にするという。
コロナ下の「ニューノーマル」では、できるだけ接触しないで済むサービスの普及が予想される。手の感触や人との接触が減るのは少し寂しい気もするが、これも時代の流れなのかもしれない。
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外出時の接触気になる 8割
コロナ禍を機に接触を気にする人は増えている。アスカネットの「コロナショック前後のモノとの接触に関する意識調査」(2020年5月、約1200人が対象)によれば、コロナでモノとの接触が気になるようになったと答えた人は8割に上った。
外出時に気になる部分のトップは「ドアノブ」の87%(複数回答)。「つり革」(84.8%)や「エスカレーターのベルト」(82.4%)などが続いた。
店舗や施設に求める対策としては「非接触で操作できるパネルやボタンの導入」が53.6%で最も多く、コロナ禍ではモノと接触せずにサービスが受けられる需要が高いことが分かった。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2021年5月8日付]
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