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カウンターの職人は気さくで、会話も楽しい

店に行って楽しいのは、カウンター内の職人やフロアの男性が、やたらに明るいこと。こちらからの質問に対し、魚種はもちろん、味わいに関しても素直に答えてくれる。サービス精神が旺盛だ。雰囲気は違うが、「カフェ ラ・ボエム」などを展開するグローバルダイニングが洗練されたイケメンによるサービスで客を魅了したように、威勢の良さと愛想で客の中に入っていく。そうすると思わず、お酒を追加注文してしまう。

ある女性の1人客は、ヤリイカのゲソを指して、「それってホタルイカですか?」と真顔で聞いていた。思わず笑いたくなったが、それに対して職人は丁寧に説明している。家庭で鮮魚を食べなくなっている中、そんな情報を提供する場としても「だり半」は機能している。

ところで、「だり半」という店名の語源は何なのか? スタッフに聞くと、すし店の「隠語」だそうだ。数字を伝える際に使う言葉で、1が「ピン」、2が「リャン」。ここまでは分かるが、3は「ゲタ」。鼻緒を結ぶ穴が3つあることから来ている。そして「だり」は4を意味する。江戸時代の駕籠(かご)かきが使っていたらしいのだが、詳細は不明だ。

新宿駅南口近くにある2号店の「鮨のだり半 南口」

オーナーは、刺し身やすしを安く食べてもらいたいという思いを持って「だり半」を作ったそうだ。「だり」は4で、「半」は半分。予算4500円相当の店にしたかったようだ。そうした思いの中で「だり半」を経営するオリエンタル(川崎市)は、神奈川で数店の海鮮居酒屋を経営している小さな会社だ。

スタッフによると、もともと鮮魚卸を営んでいたそうで、それで安く仕入れることができるとのこと。スタッフは「オーナーからは、とにかく安く提供して、お客さんを喜ばせろ、と言われています」という。まさに薄利多売の世界だ。2013年の1号店出店から2号店出店まで、6年かかったことも、この話を聞くと腹落ちする。

職人の技が生きる新鮮でおいしい刺し身

鮮魚の世界は、バイイングパワーが効きにくい。工業生産品に近い肉類と違い、鮮魚は、事前の生産予測が難しく、その時の水揚げですべてが決まってしまう。鮮魚居酒屋としては、新橋を発祥にした「魚金」が有名だ。現在50店以上を展開する企業に育っている。だが、新型コロナウイルス下の現在、刺し身はテークアウトやデリバリーに向かないため、とんかつなど新しい業態にチャレンジしている。

でも、おいしい刺し身やすしを安く食べたいというのは客の本能的な欲望だ。だり半は、それを満たしてくれる。家の近くにぜひ欲しいが、簡単に店を増やせるとは思えない。1人の客として、なんとか頑張って欲しいとエールを送りたくなる店だ。

(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)


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