「実はトレードオンの考え方は、三菱グループが140年余りの歴史の中で受け継いできた経営の根本理念である『三綱領』ともぴったり一致するんです」と、人材開発チームリーダーの森さんは言う。

「三綱領」とは「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」で、現代の言葉に言い換えれば「期するところは社会への貢献である」「フェアプレーに徹せよ」「グローバルな視野に立て」という意味だ。そして現在の垣内威彦社長も、中期経営戦略で「経済価値・社会価値・環境価値の三価値同時実現による成長」を掲げている。「このスタンスを入社時点からしっかりと意識し、高い視座をもって仕事に挑戦してほしい」。長年、エネルギー畑だった森さんも「一時期の利益だけを追っても事業は長続きしない」という実感がある。

ただ、言うは易く行うは難し。同社の出資先の飲食ブランドで、農家の自立支援や環境保全に取り組む先輩社員は、新入社員を前にしたピーダーセン氏との対談の中で、自身の葛藤も明かした。

「環境などに配慮した原材料や加工品は顧客にとっては『高い商品』になりがち。その意義を理解し、共感して買ってもらうまでのハードルはとても高いし、短期的にうまくいかないこともある。そんな中でやはり重要なのは、くじけない精神だ」

「マイボトル」の一歩先へ

新人たちは、書籍と講義でSDGsの基本をおさえたうえで新規事業の提案にも取り組んだ。同社の人材要件である「経営マインド」を養うのが目的だ。背景にあるのは、総合商社のビジネスモデルの転換。祖業である「トレーディング(貿易の仲介)」から、資源などの事業に投資して利益を得る「事業投資」へ。さらに近年は、関わる事業に人材を送り成長させる「事業経営」に軸足が移っている。

「ワークショップの狙いは経営マインドの育成」と語る森さん(写真中央)

経営マインドを持つ「経営人材」とは具体的にどういう人なのか。森さんは3つの要素を挙げる。

「本質を見極め、先を見据えた戦略を練り上げる『構想力』、人と組織をけん引し、最後までやり抜く『実行力』、そしてあらゆるステークホルダーから尊敬される高い『倫理観』を持つ人です。もちろんこれらはOJT(職場内訓練)で鍛えていくものですが、新人研修ではまず彼らの『構想力』を引き出そうと考えました。そのテーマとして、SDGsはうってつけでした」

森さんによると、新入社員の世代はマイボトルの持参や「エシカル消費」は当たり前という「SDGsネーティブ」。採用段階でも、二酸化炭素を回収して地中に埋めたり再利用するCCUS(二酸化炭素回収・貯留・利用)と呼ばれる技術を「会社としてどう活用していくつもりか」などと熱心に質問する学生が少なくないという。

「とても頼もしいですね。ただ『消費者』だった学生時代から、今後はビジネスを構想し、付加価値をクリエイトする側に立場が変わる。社会人1年目には、そこを意識してもらいたい。『SDGsビジネス戦略』はその一助になる本だと思います」

(ライター 石臥薫子)

SDGsビジネス戦略-企業と社会が共発展を遂げるための指南書-

著者 : ピーター D. ピーダーセン
出版 : 日刊工業新聞社
価格 : 3,425 円(税込み)

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