その名は「ニモ」 映画にちなんだ踊るクモの新種

2021/5/22
ナショナルジオグラフィック日本版

オーストラリアで発見された新種のピーコックスパイダー。オレンジと白の模様を持つことから、ディズニー映画のクマノミにちなんで「マラトゥス・ニモ」と命名された(PHOTOGRAPH BY JOSEPH SCHUBERT)

2020年11月の晴れた日、オーストラリア南オーストラリア州マウントガンビア近郊の湿地で、シェリル・ホリデー氏は足首まで水につかってしゃがみ込み、30センチほど先に咲く紫のランにカメラを向けた。ホリデー氏がシャッターを切ろうとした瞬間、フレームから小さな何かが飛び出すのが見えた。

その時はわからなかったが、ホリデー氏が見たのは新種のピーコックスパイダーだった。ピーコックスパイダーは、オーストラリアに生息するハエトリグモの仲間で、色鮮やかな体と複雑な求愛のダンスで知られる。

環境保護団体ネイチャー・グレネルグ・トラストのエコロジカルフィールドオフィサーで、市民科学者でもあるホリデー氏は「3~4年前からピーコックスパイダーを追い掛けていますが、(これまで見たクモとは)外見がかなり違っていました」と振り返る。腹部はくすんだ茶色で、顔にオレンジと白の特徴的な模様があった。

興味をそそられたホリデー氏がフェイスブックのピーコックスパイダー鑑賞ページで写真を共有したところ、ページの管理者であるクモ学者ジョセフ・シューバート氏の目に留まった。シューバート氏も見たことのないクモだった。

2人は連絡を取り合い、ホリデー氏が生きたクモを捕まえてメルボルンのシューバート氏に送った。そして、シューバート氏らがディズニー映画の主人公のクマノミにちなんで「Maratus nemo」(マラトゥス・ニモ)と正式に命名した(米ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーは米ナショナル ジオグラフィックパートナーズの筆頭株主です)。

20年3月に学術誌「Evolutionary Systematics」で紹介されたニモは、発見ラッシュが続くピーコックスパイダーの最も新しい種だ。11年にはわずか15種だったピーコックスパイダーは、ニモの発見によって92種となった。

メルボルンにあるミュージアムズ・ビクトリアで生物学者として働くシューバート氏は、写真撮影が手軽なものになったことが新種発見ブームの背景にあると考えている。誰もがスマートフォンで写真を撮り、ソーシャルメディアですぐに公開できるようになった。

もちろん、このクモへの関心の高さ、人気も助けになっていることは間違いない。米粒大のクモが行う魅惑的な求愛のダンスは数え切れないほどネット上に広まり、ピーコックスパイダーはネット上で大評判なのだ。

魅惑的なダンス

とはいえ、ピーコックスパイダーを見つけるのは簡単ではない。ピーコックスパイダーは1年の大部分にわたって茶色で、春に脱皮したオスだけが目を引く色になる。加えて体が小さい。毒を持たないとはいえ、こうしたことから、このクモの研究は難しいのだ。

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新種クモの発見が重要な理由
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