「正しく努力すれば成果は出る」

18歳で新宿調理師専門学校(東京・新宿)に入学。卒業後、都内のフレンチレストランなどで修業を積む。田村氏の仕事にかける熱量と志の高さは群を抜いていた。

レストラン業界では一般的に、新入りの若手はまず、ホールでの給仕として働くことが多い。しかし、田村氏の場合、キッチンのメンバーに欠員が出ると、決まって「(キッチンに)入れ」と白羽の矢が立ったという。なぜなのか。

「僕が初めて働いた店のシェフは、フランスでの修業経験が長く、年功序列ではなく能力をみて評価してくれる師匠だったことは大きかったです。加えて、僕も人一倍の準備をした上で仕事に臨んでいた自負はあります。野球に打ち込んでいたときと同様に、正しく努力すれば成果は出るし、チャンスも回ってくるんだと実感しました。何に対して、どう努力すべきか。それは、今でも常に意識するようにしています」

専門学校時代からそのシェフに憧れていた田村氏は、専門誌に掲載されたシェフのインタビュー記事などを片っ端からスクラップしていた。彼の料理の一皿一皿に込められた思い、使われている食材の詳細まで頭に叩き込んであったという。

シェフの「目指す世界」を理解していれば、いざ現場に入っても先回りして動ける。「この料理の準備を」と具体的な指示を受けた際にも、より早く、綿密な対応が可能になる。何も考えずに「作業」をしている者と、熱量やビジョンを共有した上で立ち働く者とでは、雲泥の差が生まれた。

「料理人って、変わった人が多いと思います。ほとんど寝ずに働ける人とか、度を超していると映るほど完璧主義の人とか。そうすると、周囲は気圧(けお)されて萎縮してしまうことも多い。でも、僕はそうではなくて、そのシェフとどれだけ同じ世界を見て、同等以上の熱量を持って仕事に臨めるかが大事だと思っていました」

「当時は20歳そこそこの新米だったのに、30代の先輩に対して『もっとこうすべきだ』なんて言い放つこともあって、生意気でしたね。でも、シェフが自分に『憑依(ひょうい)』したくらいの感覚の熱量で働くことが店全体を盛り立てるし、結果的に自分の成長速度を上げることにもつながっていた」

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その当時、田村氏が胸に抱いていた目標は「30歳でシェフになること」。業界では30代半ばでの独立が普通だったが、努力するからには「人とは違う成果」を出したいという欲望があった。大勢の人が踏み固めた道をなぞるより、自分にしかできないことを見つけたい――。その目標を見据えながらフランスでも修業を重ね、帰国後、ミシュランの星を獲得したレストランで31歳のとき、シェフに就任した。

そんな生粋のシェフが自身のキャリアに違和感を抱き始めたのは、30代の前半。ミシュランと並び称される美食ガイド『ゴ・エ・ミヨ』で、期待の若手シェフ賞を受けてからのことだった。

(ライター 加藤藍子)

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