日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/5/15

スペースXの「スターシップ」とは?

スターシップは、現在スペースXが開発を進めている2段式重量物打ち上げロケットだ。全長70メートルの1段目の大型ブースター「スーパーヘビー」と、同じく「スターシップ」と呼ばれる全長50メートルの上段で構成される(つまり「スターシップ」は上段のみに加えてロケット全体の名称でもある)。NASAが国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を輸送するために使われている同社のファルコン9ロケットと同じく、それ自体で離着陸でき、再利用もできるロケットとして開発されている。

月への旅行の間、スーパーヘビーはスターシップの地球からの離陸と月の軌道への飛行を助け、軌道に到着すると、宇宙飛行士の到着を待ち、スターシップ自体のエンジンを使って宇宙飛行士を月面に送り届ける。

スペースXは2020年12月からスターシップ・ロケットの高高度飛行試験を開始し、4台の試作機を打ち上げている。これまで高度12.5キロメートルにまで達しているが、いずれの試作機も着陸に失敗して爆発した。NASAは、スペースXが人を乗せて月との往復を始める前に、月への無人着陸を成功させることが発注の条件だと述べている。

ほかにNASAの月面着陸機の受注を目指したのは?

NASAの契約獲得は、スペースXのほか、ブルー・オリジンが組織したチームと、単独で設計を行うダイネティクスの間で争われた。

おそらくNASAの発表の中で最も驚かれたのは、3組の最終候補の中からスペースXだけが選ばれたことだろう。NASAは通常、2つの業者を選定する。重要な任務を行う宇宙船を2つの選択肢から選べるようにしておき、一方の業者が失敗しても所定の計画を続行できるようにするためだ。例えばISSに貨物を送るNASAの商業貨物輸送計画では、スペースXとノースロップ・グラマンの両方を使っている。またNASAの商業乗員輸送計画では、スペースXとボーイングの両方と契約している。

スペースXだけを選んだのは、同社が月に着陸可能なスターシップを造れるとNASAが確信しているしるしだろう。1社のみを選定したのは、NASAが議会によって承認された予算内で再び月面着陸を果たそうとしているからでもある。29億ドルというスペースXの入札価格は競合先の提案よりはるかに低く、また同社はスターシップの開発コストの半分以上を自ら負担するとしている。ただし、これでNASAには予備の選択肢がなくなった。

「供給業者を1社に、それもあのようにとてつもなく野心的な宇宙船に絞ったのは、(NASAには)珍しく大胆です。スターシップは、野心的としか言いようがありません」と話すのは、宇宙探査などに関する活動を行うNPO惑星協会の主任弁護士兼宇宙政策顧問、ケイシー・ドライアー氏だ。スターシップはまず人を乗せて月との往復をした後、最終的には火星に人を送ろうとしている。すなわち、NASAはスターシップに投資することによって「2次的に人類の火星到着計画にも投資していることになる」のだという。

将来のアルテミス計画については、選択肢が残されている。NASAによれば、スペースXとの契約に含まれるのは、アルテミス3号とそれ以前に無人で行われる試験的なミッションのみであり、アルテミス4号以降については、ほかの企業からも月への有人宇宙飛行船の入札を募る予定だ。

スターシップが月に行けるのはいつから?

NASAは4月16日に行った記者会見で、スターシップによる米国の宇宙飛行士の月面着陸は、早くとも2024年以降になると述べた。NASAは現在アルテミス計画のスケジュールの見直しを行っていると強調し、確定的な時期は示さなかった。「準備が整うまで打ち上げは行いません。打ち上げを行うのは、すべてのシステムの安全が確保されてからです」とNASAの計画管理者、リサ・ワトソン・モルガン氏は説明した。

スペースXが始めようとしている月旅行は、NASAのアルテミス計画だけではない。2018年に、スペースXは日本の資産家、前沢友作氏とその招待者のアーティストらを乗せて月周回旅行を行う契約を結んでいる。「ディアムーン」と名づけられたこのミッションを2023年中に実施したいとしている。

とは言え、月旅行は並はずれて大掛かりなミッションだ。NASAやスペースX、その他の組織は、計画を遅らせざるを得なくなる可能性もある。しかし、いったん宇宙飛行士が帰還してからは、月に長期間滞在して研究を行えるようになることをNASAは期待している。火星に向かう技術の試験を行うために。

「2020年代は、アポロ時代以来、宇宙分野にとって最も刺激的な10年間になると思います」とドライアー氏は言う。「これが、その大きな理由です」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年4月21日付]

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