日経ナショナル ジオグラフィック社

2021年1月、中国貴州省の駅で入場前にデジタル健康証明書をスキャンする乗客。多くの国で、旅行者が新型コロナウイルスワクチンの接種を受けているかどうかを確認するために、ワクチンパスポートとも呼ばれるQRコード付きの健康管理アプリが開発されているところだ(PHOTOGRAPH BY YANG WENBIN, XINHUA/EYEVINE/REDUX)

プライバシーと公平性の確保を

様々なデジタルワクチンパスポートが開発される中、全米市民自由連合(ACLU)は、人々の自由やプライバシーが危険にさらされる可能性があると警告した。こうした懸念や、他の政治的な思惑から、ワクチンパスポートの使用を禁止した州もある。フロリダ州とテキサス州ではワクチンパスポートを違法とする法案が可決されたほか、施設などへの入場に際し、いかなるタイプのワクチン証明書も義務づけないと述べる州知事も出ている。

このような懸念は、他の国でも生じている。英ロンドン在住の技術研究者であるステファニー・ヘアー氏は、政府が最近発表した「新型コロナ状況認証」プログラムに深い懸念を抱いている。

ワクチンはまだすべての人に提供されているわけではないので、このプログラムは、ワクチンを希望しながらもまだ接種していない人を罰することになりかねない。また、個人宅に集まっている人には何の効果もない。さらに同氏は、英国がパンデミックの初期にリリースした新型コロナ追跡アプリについて、感染者と接触した可能性があるユーザーへの通知がきちんとできていなかった例を指摘する。

感染率をどの程度、あるいはどれだけ早く下げられるのかを含め、ワクチンパスポートがパンデミックにどのような好影響を与えるのかという点にこそ、時間と労力をかけるべきであるとヘアー氏は言う。

「技術で解決できれば、それはとてもうれしいです」と同氏は語る。「しかし、それが有効だとは思えないのです。(感染率の)数値が下がらないのであれば、なぜワクチンパスポートを使うのでしょう。おとぎ話のようなことはやめませんか」

ワクチンパスポートが2021年、どのように展開していくかにかかわらず、新型コロナウイルス感染症についての理解が深まるとともに、モニタリングしながら変更を加えていく必要があると、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院教授、ハワード・コー氏は言う(編注:厚生労働省も、ワクチンの感染予防効果はまだ不明のため接種後も感染予防対策を継続するよう促しています)。

コー氏は、バラク・オバマ元大統領の下で、米国保健福祉省の保健担当次官補を務めた。2010年にエイズウイウス(HIV)陽性の外国人の米国入国禁止措置が解除されたときも、同省に在籍した。

この入国禁止措置は、HIV感染症がよく理解されていなかった1987年に開始され、恐れと偏見のために長く続いていた。コー氏は、同措置の解除後に米国で開催された最初のエイズ会議に登壇した。こうした体験が、ワクチンパスポートについての考え方に影響したという。パスポートは、世界を開くものから、人々を締め出すものに早変わりする可能性があるのだ。

「公平性や公正性といった概念を保持し、差別につながりうるツールとして使用しないようにしなければなりません」

とはいえ、導入後の効果を把握しないことには、ワクチンパスポートの目標を設定することは不可能だとコー氏は言う。それまでは、また、ワクチンや変異ウイルスについての理解が深まるまでは、ワクチンパスポートの将来は不透明なままかもしれない。

「パスポートがどのような役割を果たすか、はっきりしません」と同氏は言う。「慎重に進めていく必要があります」

(文 JACKIE SNOW、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年4月20日付の記事を再構成]