日経ナショナル ジオグラフィック社

一方で、スマートフォンを持っていない人でも利用できるように、多くの場合はバーコードやQRコード付きの紙という選択肢も用意されている。紙の上にQRコードを表示するというシンプルな技術でも、世界を再び開くためのパスポートとして機能するかもしれない。

2021年1月、新型コロナウイルスワクチンを接種し、CDCのワクチン記録カードを受け取る米シアトル市民。こうしたカードやデジタルワクチンパスポートが、旅行を再開するための鍵となるかもしれない(PHOTOGRAPH BY GRANT HINDSLEY, AFP/GETTY IMAGES)

世界で使える標準化が必要

米国では様々な組織が、紙の書類をベースに、安全で公平な、かつプライバシーが守られる方法での接種記録のデジタル化を試みている。米ワシントン・ポスト紙が入手したバイデン政権の資料からは、少なくとも17種類のワクチンパスポートが米国内で開発されていることがわかる。

気が遠くなるような挑戦だ。多くの国はここしばらく、旅行者の入国にあたって新型コロナウイルスの陰性証明を提示するよう求めている。現在のところ、検査結果の証明は、ワクチン接種を証明するより簡単だ。旅行者は検査機関からの書類や電子メールを提示すればよい。それでも、時には審査する側が知らない言語で記述されている場合もある。標準的なフォーマットがないせいで、混乱が生じてきた。

「シンプルであるべきです」と言うのは、米マサチューセッツ工科大学の准教授で、ワクチンパスポートを有志で開発している団体「パスチェック・ファウンデーション(PathCheck Foundation)」の創設者でもある、ラメシュ・ラスカー氏だ。「CDCのワクチンカードよりもプライバシーを侵すものであったり、複雑であったりしてはなりません」

パスチェックのワクチンパスポートは、認証されたワクチン接種記録をQRコードに結びつけ、情報を必要とするあらゆる施設や入国管理局でスキャンできるようにする。データは改ざんされないように保存され、オフラインでも利用できる。また、インターネットがない環境でも使えるように、ワクチン提供者が紙を使って情報を配布することもできる。

確実に求められているのは、世界中の国で、また複数の言語で利用できるようにするデータの標準化だ。IBMのワクチンパスポートプロジェクトリーダーであるエリック・ピシーニ氏は、標準化の一例として、複数の種類のクレジットカード(すべてバックエンド技術が少しずつ異なる)を読み取れるカードリーダーを挙げる。

「誰もが信頼できる一連の標準規格が必要です」と同氏は言う。「3つの国を旅行するのに、3つのアプリを用意しなければならないのでは困ります」

IBMのワクチンパスポート技術は、米ニューヨーク州のワクチンパスポート「エクセルシオール・パス(Excelsior Pass)」に搭載されており、現在、一部のスポーツ会場やアリーナでテストが行われている。テストに参加中のニューヨーク市民は、特殊なコードが書かれたアプリを見せ、各施設は別のアプリでそれをスキャンする。このコードには、その人のワクチン接種状況や最近の新型コロナウイルス検査結果などの情報が保存されている。問題がなければ、緑色のチェックマークが表示される(今のところ、このパスの使用は任意だ)。

「コモンパス(CommonPass)」という名のワクチンパスポート技術も開発中だ。「コモンズ・プロジェクト・ファウンデーション(The Commons Project Foundation)」の最高経営責任者であるポール・マイヤー氏によると、地域や言語を越えてどのような基準が採用されても、新型コロナウイルス検査結果やワクチン接種記録を証明することができるという。現在、オランダ領の島アルバで陰性証明のために使われている。また、日本航空とカンタス航空がアプリの実証実験を行っているところだ。

ワクチンパスポートは、旅行のためではなく、公衆衛生の観点から設計されるべきだとマイヤー氏は言う。「これは健康の問題であり、私たちが解決しなければならない医療問題です。正しく行えば、旅行の世界も恩恵を受けることができます」

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