時代に適した“小型船”

かつては、会場の規模が大きくなれば“成功”と見なされ、“成功”イコール幸せと考えられていた。しかし、そこに幸せが見出せない時代にある。その理由の1つが、前述のインターネット時代に生じるストレスであり、さらにもう1つ挙げるのが、30年前に膨らんだ音楽業界の仕組みによる“動きづらさ”だ。彼は、今の日本の音楽業界を「かつてのバブルが大きかったぶん、資本やシステムが巨大に膨れ上がっていて、その姿は豪華客船のようなもの」と例える。

(写真:上野裕二)

「豪華客船に乗らないと広い世界に出られない音楽業界の現状は、果たして今の時代に合っているのか。自分が幸せを感じるには、根本の仕組みそのものを変えないとだめなのかもしれないと思いました。それには、怖いけれども、今の蓄えで自分の小型船を作るしかないのかもと考えました。ましてや、インターネット時代のスピードを考えたら、小型船でやるしかない。即断即決で前に進んでいける体制でやっていかないと」

それが、マネジメント&レーベルBMSGの設立につながった。

「当初は、個人事務所にするか、韓国のAOMGとかHi‐Lite Recordsのようなマネジメントレーベルのあり方に近い形にするか、つまり自分のレーベルを立ち上げて、スタンスが近かったり共鳴するアーティストを加えていく形にするか、悩みました。去年は芸能界で事務所からの独立が目立ちましたが、当然、個人事務所にすれば実入りが大きい。

一方で、自分以外の人を抱えて、会社を大きくしようと思うほど、特に初期は出費が恐ろしいし、蓄えてきたお金も評価も、ものの2年くらいで水泡に帰す可能性もあるわけです。『やっぱり日本では無理かもしれない』『日本と海外は違う』っていう言葉が自分の中で呪いのようにあって。それでも豪華客船では水の合わない人たちの中にこそ才能が眠っているのを感じていましたし、絶対に自分のためにも音楽業界のためにも必要なはずだと思って、後者を選びました。

その間にも僕の元に、シンガーやラッパーから『居場所がない』っていう相談が、どんどん増えていたんです。ダンスも歌もうまくて、さらにイケメンで……表に立てる才能が、『やりたいけれども、やる場所がない』という理由で、バックで踊る仕事をしていたり。

インターネットで個の時代が来たことで、音楽で食っていくってことに関しては相当ハードルが下がったと思うんです。インディーズでやっているヒップホップアーティストなんかは、すごく暮らしやすいはずなんですよね(笑)。でも、例えばダンス&ボーカルの才能を持つ子がインディペンデントで思うがままに活動できるかっていうと、それは難しい。

ここ数年、日本の優れた才能が、10代前半から韓国語を学び現地で暮らし、韓国で活躍の場を得ていますが、それが可能な家庭や環境ってやはり稀だし、今まで日本は、どれだけの才能を損失してきたんだろうと思います。日本をベースに活動し、世に出た人も、30年前の仕組みのままの業界の状況によって、いったいどれだけの才能が死んできたのか。そう考えたときに、『才能を殺さないために』というBMSGのステートメント(理念)が生まれました」

インタビュー後編「自分を殺すチームワーク、グループに不要」では、才能の海外流出に対する危機感、オーディションの重圧などについて聞く。

(ライター 日高郁子)

[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]

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