日経ヘルス

副作用などの課題があった従来の治療薬

しかし今、多汗症の治療に積極的に取り組む医療機関が増えている。2010年に「原発性局所多汗症診療ガイドライン」(15年に改訂)が作られ、診断基準や効果が科学的に認められた治療法が示されたからだ。さらに昨年11月には腋窩多汗症のための塗り薬として新たに「エクロックゲル5%」(成分:ソフピロニウム臭化物)が発売された。

ワキの多汗症に悩む患者にとっては、新しい薬の登場により「治療の武器」が増えたといえる。では、大量のワキ汗を止める治療にはどんなものがあるのだろうか。

一つは、エクリン腺から汗が出る穴(汗孔)を塞いでしまう治療だ。従来からある方法は塩化アルミニウムという成分を含んだ制汗剤を毎日塗布する。塩化アルミニウムは汗の成分と結びつくことで固まりを作り、汗の通り道を塞いでしまう。患者の半分で症状をコントロールできるが、刺激があり、多くの人が皮膚の副作用(皮膚炎、紅斑、かゆみ、湿疹など)を起こすため、ステロイド外用薬を併用することも多かった。また、保険で治療のできる医薬品としては発売されておらず、薬局で調剤してもらう必要がある(薬局製造販売医薬品)。そのため近隣の薬局で対応できない場合があるという課題もあった。

もう一つの対策は、汗を調節している神経の機能を抑制すること。汗は交感神経から放出されるアセチルコリンという物質が、エクリン腺のM3(ムスカリン受容体サブタイプ3)という場所に結合することで分泌される。そこでアセチルコリンの働きを抑制する抗コリン薬や自律神経調整薬(トフィソパムなど)を内服したり、ワキの下の皮膚に局所での末梢神経(交感神経)からアセチルコリンの分泌を阻害するA型ボツリヌス毒素を注射するボツリヌス療法がある。ボツリヌス療法は制汗剤で十分な効果の得られない人に行う治療で9割の人に効果がある。ただ、治療費の負担が大きいうえに、効果が半年から1年ほどで弱まるため治療を繰り返す必要がある。

図2 腋窩多汗症の主な治療

第1選択薬として使える医薬品として「エクロック」登場

これまでの診療ガイドラインでは、腋窩多汗症で最初に行うべき治療(第1選択薬)は制汗剤(塩化アルミニウム外用薬)治療で、その効果が得られなかった場合に行う(第2選択薬)のがボツリヌス療法だ。そこに患者の様子を見ながら抗コリン薬や自律神経調整薬などを補助治療として行う。

新たに発売された「エクロック」は制汗剤と同様、第1選択薬として使われる塗り薬だが、作用のメカニズムは塩化アルミニウムとは異なる。横関教授は「成分のソフピロニウムはエクリン腺のM3に結合しアセチルコリンが結合するのを妨げることで抗コリン作用が現れる成分。特徴は、皮膚から吸収されると体内で速やかに代謝されて作用がなくなること。つまり、皮膚のエクリン腺だけに作用する抗コリン薬といえる」と解説する。そのため内服の抗コリン薬に見られる「口渇」(口の渇き)、「散瞳」(光をまぶしく感じる)などの副作用が少ない上、塩化アルミニウム外用薬でほとんどの人に見られた皮膚の副作用もより軽度で、頻度も5%前後と少ないなどのメリットがある。

図3 「エクロック」で発汗を抑えるメカニズム

汗は交感神経から分泌されるアセチルコリンという物質が、エクリン腺の受容体に結合することで分泌されるが、エクロックの成分ソフピロニウムは受容体に結合し、アセチルコリンの結合を妨げる。取材を基にしたイメージ図。

臨床試験での効果も次の通り。多汗症の重症度は以下の4段階で示されるが、重症度が3段階以上(いつも日常生活に支障がある)の患者や汗の量が非常に多い人に「エクロック」を1日1回、6週間塗布したところ、半数以上の人で重症度が2以下(日常生活に全く支障がないか、時々支障がある)に低下したり汗の量が半分以下になったりした。

<HDSSによる自覚症状分類>

1:発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
2:発汗はがまんできるが、日常生活に時々支障がある
3:発汗はほとんどがまんできず、日常生活に頻繁に支障がある
4:発汗はがまんできず、日常生活に常に支障がある

※HDSSは「Hyperhidrosis disease severity scale」の略で、多汗症重症度スケールのこと

また、「エクロック」の利点として、保険で処方される医薬品なのでほとんどの医療機関で治療できることも挙げられる。横関教授は「皮膚科に限らず内科など、普段通っているかかりつけ医にも相談できるので、患者さんにとってはより治療を受けやすくなる」と期待する。

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「エクロック」は入浴後に塗布するのが基本
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