主語のねじれ、呼応の乱れは禁物

誰がリーダーなのか判然としないしゃべり方を選ぶと、信頼感が損なわれてしまいがちだ。たとえば、重点措置の拡大を検討し始めたタイミングでの記者会見で、菅首相はこう言った。

「5大臣で会合し、全国の感染者数等を分析をし、議論をいたしました。愛知県を含めて他の地域も、明日、専門家会議に開催をし、はかることにいたしました」

やはり主語はない。「私は」ではなく、いきなり「5大臣で会合し」と、複数主語で始まっている。閣僚中枢の総意を示したかったのかもしれないが、決断の主体がぼやけてしまった。さらに、決定の中身が「専門家会議にはかる」というのでは、判断の「丸投げ」のようにも映る。主語がはっきりしないと、発言の軸が揺らいでしまう。

これはビジネスの言葉遣いでも共通している。主語とそぐわない述語で受けると、文意がねじれた格好になり、意図が伝わりにくい。主語抜き文が珍しくない日本語では特にそうなりがちだ。

たとえば、リーダーの自分主語である「私は」で始まったのに、「予算です」とか「厳しい」といった、「私は」とマッチしにくい述語で終わるようなケースにしばしば出くわす。このような「脱線」は、しゃべっている途中で別の思いが混じり込んでしまった可能性が高い。

「なぜなら」と始めたら「~だからだ」と終わるといった約束事もしばしば崩れてしまう。呼応の関係が正しくないと、聞き手は何だかはぐらかされたような違和感を覚えやすい。「~には三つの理由があります」と切り出しておきながら、1個足りないとかオーバーしたとかいうのも、まとまりを欠いたイメージを与えてしまうだろう。

意識したい点は、自分主語を軸に据えつつ、脱線を防ぐところだ。対策は結構、たやすい。あらかじめ原稿を書けば済む。細かい部分まで完全に書き込む必要はない。主な論旨だけをまとめた箇条書き式のメモでも構わない。文章として書き出しておけば、主語のねじれや要素の不足、根拠の甘さなどの欠点に気づきやすくなる。

本番の席でも、話しながら、直後にしゃべる内容を、頭の中で文章化していこう。1文ずつの「ミニ作文」で構わない。主語・述語や呼応関係に気を配りながら、「いったん検算してから声に出す」ように心がければ、「脱線」も防ぎやすい。

自分主語を意識すると、「自分はここで何を言いたいのか」をイメージすることにつながり、論点がクリアになるというメリットもある。もちろん、実際にしゃべる際は「私は」を連呼する必要はなく、口調や述語で主体を印象付ければ済む。

「いちいち文章をこしらえるのは面倒だ」と思うかもしれないが、これまでのインタビュー経験からみると、知的で味わい深い発言ができる人は自然な形で、この脳内作業をこなしながら、しゃべっていることが多いと感じる。こういう人のしゃべりは、インタビューや対談の録音をそのまま文字にできる。そのレベルまでは遠くても、事前の書き出しや直前の「脳内作文」はリーダーらしい発言を支えてくれるスキルだから、次の発言機会からでも試してみてはいかがだろう。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。