「裕福な生活」と「下町暮らし」、初恋の思い出も

満州の新京(長春)がルリ子さんの出生地。父親は大蔵省の高級官僚で満州に駐在していた。その後、赴任したタイで一家は終戦を迎え、命からがら日本に引き揚げてくる。茨城、千葉などに移り住んだ末、東京・神田のこのガード下に居を構えた。

「帰国後、代議士秘書や醸造会社の工場長をしていた父はストレスと過労で健康を壊してしまい、神田に移り住むことになった。生活はかなり大変だったけど、下町情緒が豊かでとても楽しかったわ」。生活を支えるために自宅でジャン荘「五月荘」を営んでいたという。

ルリ子さんは4人姉妹の次女。近所で美人と評判だったらしい。

少女時代の浅丘ルリ子さん

「近くにステキなお姉さんが住んでいて、喫茶店でソーダをおごってもらったり、お化粧の仕方を教えてもらったり、とてもかわいがってくれたの。その弟さんが爽やかな男の子でね。私にとって初恋の人だったのよ」。神田には映画館がたくさんあり、妹たちを引き連れては時代劇や西部劇をよく見に行ったという。映画や音楽、踊りなど娯楽や芸能に触れるのに神田は格好の場所だったようだ。

外地での裕福な生活とつましい下町暮らし……。ルリ子さんは対照的な家庭環境をどちらも経験している。あのあか抜けたハイカラな雰囲気と姉御肌で飾らない庶民的な性格は、こうした生い立ちとともに自然に形成されてゆく。

生い立ちがリリーを生んだ、山田監督が役柄を変更

寅さんシリーズのリリー役はどんな経緯から生まれたのだろう?

リリー役として出演した「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」とデビュー作「緑はるかに」のDVD

取材すると、役柄をひらめいたのは山田洋次監督だったそうだ。「舞台が北海道なので、最初はルリ子さんに牧場で暮らす女性の役を演じてもらう予定だったんです。でもルリ子さんに『私、こんなに細い腕なのに、牛の乳搾りなんてできるかしら』って真顔で聞かれたから、『それもそうだな』と思い直し、地方のキャバレーでよく見かける売れない歌手の役はどうだろうと思い付いたんです」。リリーの誕生秘話について山田監督はこう語る。

ルリ子さんが神田に住んでいたことを知らなかったようなので、少女時代の下町暮らしの様子を山田監督に詳しく伝えると、「へえ、そうでしたか……。分かる気がしますね。ルリ子さんが醸し出す下町育ちっぽい雰囲気が、リリーを生み出す下地になったのは事実。彼女の生い立ちが絶妙に関係していたんですね。それは興味深い話です」と納得した表情でうなずいていた。

ルリ子さんは中2のときに日活映画「緑はるかに」のオーディションで2千数百人の応募者の中からヒロインに抜てき。以来、小林旭さんや石原裕次郎さんの相手役としてスター街道を一気に駆け上がる。

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人気女優になっても偉ぶらない、皆に慕われた姉御
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