火星、ヘリの偉業 地球なら高度3万メートルでの飛行

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

火星の地表に立つ小型ヘリコプター、インジェニュイティ。2021年4月8日、NASAの火星探査車パーシビアランスが撮影(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH)

史上初めて、火星の平原からヘリコプターが飛び立った。米国時間2021年4月19日、米航空宇宙局(NASA)の小型ヘリコプター「インジェニュイティ」は、地面から約3メートル上昇し、ホバリングした後、赤いほこりを巻き上げながらゆっくりと着陸した。飛行時間は約40秒だったが、技術的には非常に大胆かつ画期的な成功となった。

「多くの人が火星で飛ぶことは不可能だと思っていました」と NASAジェット推進研究所(JPL)のインジェニュイティ・プロジェクト・マネージャーを務めるミミ・アウン氏は言う。「大気がとても薄いのです」

火星探査の空白を埋める

火星でヘリコプターを飛ばすのは恐ろしく難しい。火星には、地球でいえば高度3万メートルの大気に相当する薄い大気しかないためだ。これまでに地球でヘリコプターが到達した最高高度は、1972年にフランス人操縦士がマルセイユの北西にある空軍基地で飛行した1万2440メートルだ。

「私たちJPLは、あえて壮大なことに挑むのです」。JPLの公式モットーを引用して、アウン氏はコメントした。

インジェニュイティは背丈がわずか50センチの小型ヘリだが、NASAはいずれさらに大きなヘリコプターを使って、火星を新たな視点から調査する計画を描いている。火星を周回する探査機は、全球的な視点から惑星の構造や地質学的特徴をつかみ、一方で地表の着陸機や探査車は、鉱物や岩石層を間近で観察し、惑星の歴史をひも解く手がかりを探す。

これにヘリコプターが加われば、周回機よりも詳細に、クレーターや渓谷、山の全体的な調査が可能になると、スミソニアン航空宇宙博物館の惑星科学探査学芸員のマット・シンデル氏は言う。また、岩壁や火山の斜面など、探査車が到達できない場所へも近づくことができる。

「周回機の視点と地上の視点との間にある空白を埋め、火星を地域単位でさらに詳しく観察できるようになるでしょう」

NASAのスティーブ・ユルチク長官代理は、将来的に「地平線の向こうを調査して、探査機の進行方向を事前に計画したり、火星の有人探査が可能になれば、宇宙飛行士のために事前探査をするという使い方もできます」と話す。

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