隅修三・東京海上日動火災保険相談役「地方創生は都心の木造ビルから」

政府は2050年に温暖化ガスの排出を実質ゼロとする目標を掲げています。実質ゼロのためには単に排出量を減らすだけでなく、森林の活用によりCO2の吸収量を増やさなくてはなりません。いち早く木造ビルの可能性に注目してきた東京海上日動火災保険の隅修三相談役に、日本での森林資源活用などについて聞きました。

――「脱炭素」で木造ビルに関心が高まってきました。

隅修三・東京海上日動火災保険相談役

「日本は戦後に進めた大規模な植林の樹齢が50年を超えている。森林による温暖化ガスの吸収力は一定年齢でピークを迎え、その後は低下する。本当はピークを過ぎた木は伐採し、吸収力のある若い木に植え替えていかなくてはいけない。伐採と植林による山林リサイクルのためにも、切り出した木を大量に用いる木造ビルの普及が重要だ」

――そもそもどうして木造ビルに注目したのですか。

「私は山口県の山の中で育った。(進学と就職で)東京に出てきて、だんだんと地方や里山が廃れていく状況にじくじたる思いが募った。そこで林業に注目したのだが、大規模な需要が生まれない限り林業の復活はない」

「ヨーロッパでは中高層ビルに木材が使われていることを知り、『これだ』と思った。日本では木造は燃えやすく、地震にも弱いという固定観念が定着しているが、CLT(直交集成板)を使えば強度が鉄筋コンクリート並みのビルも造れる。オフィスビルやマンションへの需要が出てくれば、林業に投資する予見性も高くなっていく」

――普及の状況をどう見ますか。

「ヒューリックが銀座に12階建ての木造ビルを建てることになったのは本当にうれしい。さらに地方の企業経営者や、大手デベロッパーからもオフィスビルを木造にする案が出てきている。ただしまだ全体の一部で、本格的な普及は先の長い話になる」

「『木でビルを造るなんて……』という日本人の固定観念が普及への最大の壁だろう。しかし木材に耐久性がないという人には、木造建築として1300年続く奈良の法隆寺を見てもらいたい。大地震に対しても耐震性を発揮できる超高層木造ビルの設計も現れている」

――東京・丸の内の本店『東京海上日動ビル』の建て替えを控えています。

「私は建て替えのプロジェクトに直接携わっているわけではないが、木をできる限り多く使ってほしいと要望している。おそらく受け入れてくれるだろう。将来はオフィスビルが定礎したことを記す銘板のとなりに、木材の使用量やCO2の削減量なども記すようになっていればいいと思う」

――日本の森林の将来をどう描きますか。

「木のオフィスビルは働く人に精神的な落ち着きをもたらす。かたや森林リサイクルが回り出せば、地方で若い人の働き口も生まれる。山林が復活すれば、農地も生き返り、海の環境もよくなる。一石五鳥にも六鳥にもなるのが木造ビルの普及だ」

(高橋元気)

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